【話の泉ー笑い】その十七 ボケとツッコミ

外国人にも容赦なくツッコミを求める関西人がいます。外国人でもボケとツッコミはわかってくれると思うからでしょう。その通りです。彼らは笑いのなにかはわかっています。関西の場合はボケとツッコミが笑いの技能とか技芸といえそうです。『関西人は面白い』というステレオタイプがあるのは、一つはテレビで芸能人が関西弁で話していることの影響もあります。【関西弁が強いのではなく、生活ことばが強い、標準化されない生活ことばで笑いを産むのが関西漫才だ】という人もいます。頷ける言葉です。

芸人の言語学

日本の漫談家(One-man talker) には、女性客に対して「綺麗ですね」と褒めちぎった後、「私は女性を見る目が無いのです」、「昭和枯れすすきの皆さん」といって笑いを誘う定番があります。老化現象、高齢化社会、物忘れ、夫婦の確執、アルツハイマー、痴呆症、カツラ等を引き合いにしたフレーズは結構笑いを誘うことが多いようです。当然、中高年以降の聴衆者を前にしての笑いの場です。中高年に対するネタとして「冷え切った夫婦関係」「容貌の衰え」「病気や死」こうした話題で聴衆を笑わせ、終わりに「一言多かった事を心からお詫び申し上げます」といって場を和らげるのです。

「日本では、ボケとツッコミに代表されるように、会話のやりとりの中から生まれる笑いが主流ですが、欧米ではストーリーを語るような笑いのパタンが多いです。一言で欧米と言っても、アメリカとヨーロッパでもまた違っていて、ヨーロッパはアイロニー(皮肉)の要素が大きいといわれます。話題はほとんどの場合、特定のターゲット層に向けて発せられるもので、 発信する人と受け取る人の間に何らかの共通する文化が想定されているのが普通です。さきほどの漫談の話題は、中高年の人であればすぐ笑えるものばかりです。若年層にはまだピンとこないはずです。年代層によって文化が違うからでしょう。

ボケ、ツッコミ認定証

関西のある夫婦の漫才から思うのですが、ボケは一人で突っ走るような雰囲気です。そこでツッコミは相手の話を受け入れて「おかしいと思ったところを視聴者の声としてツッコむ」のです。いかに話し相手を主役として立て、ツッコミに徹するかというのが可笑味を醸す大事な点といえそうです。

【話の泉ー笑い】その十六 ギャグと駄洒落

日本では『うちのオカンが~』と自分の母親を話題にするパターンが多くあります。「おかあはん」の変化した言葉で、関西系方言といわれます。自分の身内の者を低く言って笑いにするのです。笑いに関わらず、子どもが小さい時にママ友やパパ友同士で『うちの子なんて全然ダメで』と言い身内のものを卑下するのも同じ構造です。海外では家族をそのように卑下するような言い方はしません。日本特有の「ウチとソト」の文化が現れています。身内を下げるのが謙譲の美徳とされるような文化が笑いにも反映しています。「ウチ」と「ソト」との厳格な区別があり、それを日本人はそれが当たり前だと思っているために、「ウチの人」身内の人、を卑下しても抵抗がないのです。「ソト」とは関係がないと思うから卑下できるのです。

Gag

「洒落」と「駄洒落」の違いです。洒落のなかにも上手下手があり、程度の良くないものに関して「駄洒落」と言われます。国語辞典では「つまらぬしゃれ、まずしいしゃれ」とあります。言葉遊びの「洒落」は知識と教養を示す気の利いたものなのですが、これに価値を認めることのないカウンターカルチャーからの揶揄を込めて『駄』の文字を冠して「駄洒落」となったという説があります。

「駄洒落」は英語で“Pun”と呼びます。語呂合わせ、ギャグ(Gag)は子どもも作れます。例えば、「鶴がツルっとすべった」、「電話に出んわ」、「ワニが輪になる」、「チーターが池におっこちーたー」、「布団が吹っ飛んだ」といった短いギャグです。「ラクダに乗るとらくだ」、「イクラはいくら」など子どもでも明日からすぐ使えるギャグはあります。

なぞなぞなども駄洒落の一種です。
 ・みそ汁の中で泳いでいるカメはなに?【答え:ワカメ】
 ・いつもクシャミをしている鳥はなに?【答え:白鳥(ハクチョン!】
 ・ネズミが通っている学校はなに?【答え:中(チュウ)学校】

駄洒落

一つの単語に複数の意味があるものや、同じ発音でスペルが異なる単語を使ったジョークです。
 ・お医者が居なくて気のドクター
 ・何も欲しがらない国 イラン
 ・お風呂好きの街 ニューヨーク
 ・せんべい好きの街 パリパリ

言葉を面白おかしく組み合わせて楽しむダジャレは、子どもの創造的な思考を育み、親子のコミュニケーションを深めるのに役立つかもしれません。親父ギャグは、中高年男性の、場を和ませたい、相手と距離を縮めたい、また自分のユーモアをアピールしたいという心理から生まれるようです。
 ・牛がわらって、うっしっし
 ・神社で飲むジンジャエール
 ・ダジャレを言うのは誰じゃ?
 ・本は面白い、ホント?
 ・オオカミがトイレで叫んだ,おお、紙がない

親父ギャグとは、国語辞典によれば「年輩の男性が口にする、時代感覚からずれた面白くない冗談やシャレ」とあります。「ユーモアをアピールしたい」、「世の親父連中は自身の溢れんばかりの知識と教養を持ってオヤジギャグを披瀝したがる」との中高年男性の心理が合わさり、「親父ギャグ」は誕生したといわれます。

【話の泉ー笑い】その十五 チャーリー・チャップリンと「偉大なる独裁者」と「街の灯」

「偉大なる独裁者」製作の経緯です。イギリスがドイツに宣戦布告した6日後の1939年9月に撮影を開始します。チャップリンは、政治メッセージを伝えるためのより良い方法として話し言葉によるセリフを使うことにします。 ヒトラーについてのコメディを作ることは非常な論議をかもすと考えられました。ですがそうしたリスクにあえて、「ヒトラーは笑われなければならないから、私は決心した」と後に書いています。チャプリンは主人公のトランプ(Tramp)に代わって「ユダヤ人の床屋」を演じ、ナチ党のファッシズムや人種差別に苦悩する姿をコミカルながらも生々しく描いています。映画では二重演技において、ヒトラーを模した「アデノイド・ハインケル(Adenoid Hynkel)」独裁者を演じています。この作品には、ベンジーノ・ナパロニ(Benzino Napaloni)という名でイタリアの独裁者ムッソリーニ(Benito Mussolini)に扮した軍人も登場します。

Great Dictator

「偉大なる独裁者」は1940年10月に公開されます。この映画は膨大な宣伝効果を生み、『ニューヨーク・タイムズ』の評論家は「その年に最も待ち望まれた映画」と呼びます。そして当時の最大の収益を上げたようです。チャップリンは映画を6分間の演説で締めくくり、床屋のキャラクターを外してカメラを直接見つめ、戦争とファシズムに対する抗議を訴えます。映像と音声が同期した映画–トーキー(Talkie)はこの映画が最初といわれます。トーキーそのものの爆発性を逆用して、世界人類の敵、ヒトラーとファシズムを糾弾するのです。

このあからさまな演説がチャップリンの人気低下の引き金になったとも指摘されています。政治的な問題を議論する際に繊細さを欠くのは無神経とみなされて嫌われたようです。それにもかかわらず、ウィンストン・チャーチル(Winston Churchill)もフランクリン・ルーズベルト(Franklin D. Roosevelt) もこの映画を気に入り、公開前にプライベート上映で鑑賞したといわれます。ルーズベルトはその後、1941年1月の大統領就任式でチャプリンを招き、映画の最後の演説をラジオで読ませ、その演説は祝賀会のヒットとなったといわれます。「偉大なる独裁者」は、作品賞、脚本賞、主演男優賞を含むアカデミー賞5部門でノミネートされます。

City Lights

次ぎに、彼の最高傑作とされる映画は「街の灯(City Lights)」といわれます。この作品では、ヒロインとして盲目の花売り娘と浮浪者チャーリーが登場します。二人が交わす言葉と肌の触れ合いの触覚を通じて愛を育んでいくのです。チャップリンは初めてこの映画全編に音楽を付けています。そして映画の全編で「ラ・ヴィオレテーラ(La Violetera)(すみれの花売り娘)」というシャンソンが愛のテーマとして幾度も登場します。

無声映画からトーキーへの変遷について、興味深いエピソードがあります。チャップリンはもともと音声やトーキー映画に反対し、映画は純粋に視覚的な芸術形式である、と信じていたようです。「トーキーは世界最大の芸術であるパントマイムを滅ぼそうとしている」とも述べています。ですが映画では視覚とともに聴覚に訴えるという演出になっていることです。「街の灯」は平面に映し出される無声映画のゆえに、言葉も触覚も間接的にしか表現することができできなかません。その矛盾を乗り越えるためにチャップリンが選んだ手段が、すなわちシャンソン曲のラ・ヴィオレテーラをBGMに選ぶことだったといわれます。

【話の泉ー笑い】その十四 チャーリー・チャプリンと笑い

イギリスの映画俳優、映画監督、脚本家、映画プロデューサーがチャーリー・チャップリン(Charlie Chaplin)です。無声映画時代に名声を博したコメディアンでもあります。山高帽に大きなドタ靴、ちょび髭にステッキという浮浪者風の扮装のキャラクターで、踊り、歌、ものまね、パントマイムで単なる笑劇から風刺劇へと変化させます。喜劇は感傷的な人道主義にとどまりがちですが、資本主義に対する小市民の反抗の表現ともいわれます。「小さな放浪者(Little Tramp)」「街の灯(City Lights)」を通じて世界的な人気者になります。ドタバタにペーソス(Pathos)といわれる哀感や悲哀を組み合わせた作風が特徴的です。哀れな兵隊のペーソスと風刺を込めて描いた「担え銃(Shoulder Arms)」、脱獄囚が囚人服を脱ぎ捨てて牧師の服を教会で説教し、やがて再逮捕されるとメキシコへ追放されるとう風刺が加わった短編「偽牧師(The Pilgrim)」などもそうです。

作品の多くには自伝的要素も含まれています。「ライムライト(Limelight)」では、中年を過ぎてから酒を呑む日々を送っていた道化師のカルヴェロ(Calvero)と美しきバレリーナのテリー(Thereza Terry)との恋を描きます。社会的及び政治的テーマが取り入れられた作品に「モダン・タイムス(Modern Times)」にがあります。現代資本主義と近代的テクノロジーのもとでの人間疎外を告発し、後に〈赤〉という嫌疑を受けてアメリカから追放されるきっかけとなります。チャップリンは「モダン・タイムス」を「私たちの産業生活のある局面に対する風刺」として発表します。世界恐慌に耐えるトランプ(Tramp) とゴダード(Goddard)という女性を主人公としています。政治的言及と社会リアリズムを採用した映画であり、多くの注目を集めた作品となります。 今日、「モダン・タイムス」は、イギリス映画協会(British Film Institute) によってチャップリンの「偉大な長編」の1つと評価しています。

Charlie Chaplin

1940年代、チャップリンはさまざまな批判を受けながらも作品を製作し続け、アメリカでの人気にも大きな影響を与えていきます。その第一は、チャップリンが政治的信条を大胆に表明するようになったことです。1930年代の世界政治における軍国主義的なナショナリズムの高まりに深く懸念し、チャップリンはこの問題を作品で取り上げずにはおれないと考えていきます。次回は「偉大なる独裁者(The Great Dictator)」を取り上げます。

【話の泉ー笑い】その十三 British Joke ブリティッシュ・ジョーク その3 まとめ

イギリスのユーモアは、日常生活の不条理を狙った風刺の要素を強く含んでいるといわれます。共通の中味として、毒舌、侮辱、自虐、駄洒落、陰口、機知、イギリスの階級制度のタブーなどがあります。これらはしばしば、イギリスのユーモア感覚全体にある鈍感、皮肉、ぶっきらぼうといったデッドパン(Deadpan)な表現を伴うといわれます。デッドパンとは、「ある事の可笑しさに対して「何とも思っていない」または「何も感じていないよう」に無表情で反応する喜劇」の一種です (Wikipedia)。意図的でないものとして使われ、ドライ・ユーモア(dry humour)、乾いたユーモア、とぼけたユーモアともいわれます。ジョークはあらゆる話題に及び、そのテーマに制約はありません。

Charlie Chaplin

ドライ・ユーモアは知識人やインテリのユーモアと混同されることが多いようです。台詞や身振りから笑うのではなく、観客が台詞、身振り、文脈の中から笑いを探さなくてはなりません。分からなければ笑えない。他方、デッドパンという言葉は無表情という身振りに限定して使われ、ブラックコメディ(Black Comedy)とかポーカーフェイス(Poker Face) もあてはまります。笑っている時よりも無表情のほうが観客に受けが良いようです。世界中から愛されたコメディアン、チャーリーチャップリン(Charles S. Chaplin)の無声映画がその代表です。イギリスにはテレビでの多くのコメディシリーズがあります。そうした作品は海外の視聴者にも受け入れられ、イギリス文化を代表するかのように国際的に浸透しています。

Sir Charles Chaplin

【話の泉ー笑い】その十二 British Joke ブリティッシュ・ジョーク その2 笑いの例

「オォダァァ、オォダァァ!(Order, order)(静粛に、静粛に!)と独特のだみ声で叫んで、議員らを鎮め、イギリスのEU離脱、ブレグジット(Brexit) 論争を最前線で取り仕切ってきた下院議長(House of Common)のジョン・バーコウ(John Bercow) という人をご存知でしょうか。首相、議員の間に立って議事を進行してきた言動は真剣さとと共に笑いを作り上げる手腕があった議長です。「静粛に!」という叫びを1万回以上も使ったのもブリティッシュ・ジョークの一つといってもよいでしょう。

John Bercow

それでは、ブリティッシュ・ジョークの7つの特徴や種類を例文とともに取り上げ、一緒に笑っていきましょう。

最初は「Irony 」といわれる自虐的な表現の笑いです。本当はそうではないのですが、実際とは真逆のことをあえていうのです。例として、天気なら楽しみにしていたキャンプにいくはずだったのに、大雨で中止になってしまった場合の一言です。
Great!! I can watch TV all day in the living room where there are no mosquitoes.
「いいんじゃないか、一日中居間でテレビを観られる。蚊に悩まされることがない。」

次ぎに結婚カウンセラーの話題です。
 Patricia is a marriage counselor. Her and her husband is going to divorce.
「結婚カウンセラーのパトリシアは、近々夫と離婚するらしい。」

第二は「Sarcasm」といわれる他虐的な笑いです。誰かの感情を傷つけるため、または何かを批判するために、ユーモアを混じえながら、明らかに真逆のことを意味することを言う笑いです。LINEでメッセージを送った相手から、5日後にようやく連絡が返ってきたときの相手への一言です。
 Thank you for your quick response.!
 「早速の返事に多謝!」

House of Common

部下に頼んでいた仕事が指示していた内容と違っていて、自分がやったほうが速いと憤懣やるかたない状況で相手に一言
 Great!! I wanted to do this by myself.
 「OK、 OK、自分でやれば良かったな、、、」

第三は、「Dry Humor」とか「Deadpan」といわれる笑いです。とぼけたユーモア、ニコリともせずに言うユーモア、平然と皮肉を込めて言うユーモアなどといわれます。ポーカーフェイス{Poker Face)で言うのです。次ぎの例は、パブがガラガラの状態で店主と客の会話です。
 You’re very prosperous today.
 「今日は大繁盛だね!」
 Well, I’d be happy to, as long as you drink a lot.
 「あんたが沢山飲んでくれればね。」

第四は、「Self Deprecation」です。これは「fun of oneself」ともいって自分自身を卑下したり、謙遜する場合の笑いです。例えば、なにかの大会で優勝したとき、「たまたま勝っただけだ」とか「運が良かったか」、あるいは「自分より強い選手がいたのだか、、」というように謙るのです。
 If you are a recent winner of a competition or challenge, you use language like “I don’t deserve this” or “there were better participants than me” as a form of compensation to less-lucky participants.

第五は、「Innuendo」といって、 当てこすりとか、ほのめかし という笑いです。性的な話題ながら、曖昧なあるいは煙に巻くようなさりげない言い回しで、誰かの性格や正直さや能力などに悪い印象をもたらすことです。ケンブリッジ辞典 (Cambridge Dictionary) には次のような説明があります。「なにか性的とか不愉快な表現ながら、それを直截的にはいわない」
 A remark or remarks that suggest something sexual or something unpleasant but do not refer to it directly)

シェクスピアの悲劇「オセロ」のなかでイアーゴという悪党が、オセロの妻、デズデモアのことをオセロに告げ口をし、オセロが逆上して彼女を殺し、やがて自分も自殺する場面です。
 Iago, the villain in Shakespeare’s Othello, who defamed Desdemona and was responsible for her murder and Othello’s suicide, was a master of innuendo.

第六は、「Banter」といって 冗談、 冷やかし、からかいといった笑いです。
 They had some good banter down the pub last night.
昨日パブで楽しい冗談の言い合いをしていた。

Bob and Jim exchanged friendly banter.
ボブとジムはお互いにからかっていた

House of Common

第七は、「Pun play on words」という 駄洒落とか言葉遊びの笑いです。
 All passengers got scared when a guy in a plane stood up and shouted “HI, JACK !”
 機内にてある男が立ち上がり『ハイ、ジャック』と叫ぶと、乗客はみな恐れをなした場面です。

Haste makes waste.
 3つの単語が韻を踏んだ笑いです。日本語では「急がば回れ」ですね。

 Which is stronger, Tuesday or Saturday?
 火曜日と土曜日、強いのはどっち?
平日は”Week day”で、”Week day”を”Weak day”(弱い日)と掛けているため、正解は”Saturday”というわけです。

次のジョークは分かりやすいです。紅茶とシャッツをかけた笑いです。
 What do people like to wear in England?
 Tea-shirt

以上のジョークのジャンルのどこに含まれるかは分かりませんが、イギリスの欧州連合-EU(European Union)からの脱退(Brexit)にひっかけた政治的なジョークがいろいろあります。「Brexit」とは、イギリスのEU離脱を指す用語です。
 How will Christmas dinner be different after Brexit?
 No Brussels!
ベルギーの首都はブリュッセル(Brussel)です。Brussel sproutsは芽キャベツですから、ですから脱退後のクリスマス晩餐には芽キャベツは入らないという笑いです。

次ぎもジョークもイギリスのEU脱退を冷やかしています。
 What’s driving Brexit? From here it looks like it’s probably the Duke of Edinburgh.
最初の文の drive の意味は「駆り立てる、動かす」です。Whatが主語の疑問文なので、文字通りに解釈すると、「何がBrexitを駆り立てているのか?」まるで交通事故レベルで、 エディンバラ公が運転しているとしか思えないくらいひどい、という意味です。エディンバラ公がかつて事故を起こしたことがあることにひっかけています。

【話の泉ー笑い】その十一 British Jokes ブリティッシュ・ジョーク その1 その特徴

ブリティッシュ(British)とはイギリス人とかイギリス英語のことを指します。「イングランド」を指していた言葉がなまって「イギリス」となったとも言われます。Britishといえば「ブリテン(Britain)の人、ブリテンの」ということです。Britain (British)は地理的な観点からの呼称というのが一般的な考え方です。United Kingdom(UK)という呼び名もあります。これは「イングランド・スコットランド・ウェールズ・北アイルランド」の4つからなる連合国家(United Kingdom of Great Britain and Northern Ireland)を指す為政上の名称です。少々ややこしい呼び名なので、通常はUKという略称を使います。前置きはこの位ですが、「イギリス」とは日本だけで通用するといいたかっただけです。

Great Britain

ロシアの小咄に比べてブリティッシュ・ジョークは少々お高い雰囲気で、大笑いはできないようです。紳士、淑女の国だからでしょうか。イギリスには様々な国籍の人が集まるため、外国語訛りの英語や、奇異な外国の風習などが外国人ネタが多いようです。形式や権威への批判もジョークの対象となります。対象に権威があればあるほど面白みが増すもので、例えばアメリカ大統領をはじめ世界各国の首脳や英国王室、聖書や神もジョークのネタにされます。権力や権威に反抗的で機知に富み、強い皮肉や自虐的であることがブリティッシュ・ジョークの特徴とされます。

British Jokes

例えば「イギリスのテーブルの上にはマナーはあるが、料理はない」(There are manners but not good food on the table in England.)というのがあります。伝統や形式を重んじがちなことを皮肉っています。イギリスのジョークにはダジャレなど言葉を題材にしたネタが多いことで知られています。これもシェイクスピア(William Shakespeare) などの文学者や演劇文化を通じて培われた言葉遊びが基になっているようです。大喜利チックなコメディアンが大袈裟に転んだりするドタバタものは少ないようです。

外国語の理解力というと、複雑な長い文章を読みこなせるようになるとか、難しい表現を覚えるとか、そうしたことに注意が向きがちです。しかし、実は最も難しいのは、時代や文化的背景の部分です。ブリティッシュ・ジョークは、イギリスの地理や歴史、時事的な話題を知っていると原文を理解することができるものです。そうすると面白さや可笑味も伝わるのです。

ブリティッシュ・ジョークを一応分類すると次のようになりそうです。
 「Irony 」 自虐的な笑い
 「Sarcasm」 真逆のことを意味する笑い
 「Dry Humor」 ポーカーフェイス的な笑い
 「Self Deprecation」 謙遜し卑下する場合の笑い
 「Innuendo」 ほのめかしの笑い
 「Banter」 他虐的な笑い(からかい)
 「Pun play on words」 言葉遊びの笑い

【話の泉ー笑い】その十 エスニックジョーク その5 ロシアのアネクドート

私が残念に感じていることは、ロシア語を勉強していないために、ロシア語の駄洒落をオチに使っているものが理解できないことです。ロシア語の動詞、俗語、隠語が分からないのです。ですからどうしても翻訳された政治的な小咄などに偏りがちになるのは仕方ありません。私の長女はアメリカに帰化したロシア人と結婚していますが、彼からロシア語のオチを学ぶには時間が足りません。多くの識者がロシアの事情を知っていて、ロシアのアネクドートを正確に翻訳しオチを紹介してくれているのは有り難いです。

その1
「歯科医院に対する恐怖感を無くすためにはどうしたらよいか?」
「簡単だ。歯科医院がお前が口を開ける唯一の場所だと思うことだ」

その2
マッチ工事が火事になった。燃え残ったのは、マッチだけだった。
(「ノルマ」があったので、手抜きして製造する工場もあった。このマッチ工場も手抜きしてたから「火のつかないマッチ」を作っていたというオチ。)

その3
ある幼稚園で海外使節団を迎えることになり、保母は園児たちに「ソ連のものは世界一です!」と答えるように教育した。
保母「おもちゃはどう?」
園児「ソ連のものは世界一です!」
保母「食べ物はどう?」
園児「ソ連のものは世界一です!」
しばらくして園児たちが泣きながら言った「ソ連に行きたいよう!」

Leonid Brezhnev

その4
ある女優がブレジネフを表敬訪問した。
ブレジネフ「君の願い事ならなんでも叶えてあげよう」
女優「じゃあ、亡命希望者には一人残らず出国を許可してくださいません?」
ブレジネフ「おいおい、君は私と二人っきりになりたいのかい?」

その5
「アメリカでは国民がテレビを観る(watch)」
「ソビエト・ロシアではテレビが人民を見張る(watch)!」

Nikita Khrushchev

その6
アメリカ人「ソ連にもアメリカのような言論の自由があるって本当か?」
ロシア人「その通り。ホワイトハウスの前で、お前が『くたばれ、レーガン!』って叫んでも罰せられないのと同じ」
ロシア人「モスクワの赤の広場の前で『くたばれ、レーガン!』って叫んでも罰せられん」

その7
「嘘にはどんなのがあるか?」
「嘘には四つある。普通のと、厚かましいのと、統計と、人から聞いたってやつだ」

その8
国歌に関するプーチン大統領とのインタビューから
インタビューア「国歌吹奏のときは、必ず起立することになるのでしょうか」
プーチン「各人には選択の自由が与えられる。起立しないなら坐ることになる」
(坐るとは動詞で牢屋に入るという意味とかけている)

その9
「世界で最も中立的な国はどこか?」
「ロシアだな、今や自国の内政問題にすら干渉しないのだから」

その10
ロシア人は見知らぬ人をとにかく警戒する。このためか「ロシア人がこの世で2番目に信用しないのはアメリカ人だ」
(1番警戒するのはロシア人というのがオチ)

【話の泉ー笑い】その九 エスニックジョーク その4 共産主義とアネクドート

ロシアのウクライナ侵攻が始まった直後の2022年3月には、連邦法第32-FZ号というものが施行され、これに基づいて「軍の信用の毀損」が処罰の対象となります。ロシア軍やプーチン政権を批判したり揶揄すること(アネクドート)を封じるためと考えられます。アネクドートには、いくつかの系統があって共産主義に対するもの、独裁者スターリンに対するもの、秘密警察に関するもの、政治家に対するもの、軍関係のもの、物不足に対するもの、ノルマに関するもの、強制収容所に対するものなどなど、アネクドートを通してソ連の政治体制を馬鹿にしています。ソ連の政治的な特殊性がオチに反映されています。最近はプーチンの指導性を揶揄するものが増えています。

その1
KGB「お前の職業は?」
容疑者「著作者です」
KGB「ふん、労働者じゃないのか・・・両親は何をしていた?」
容疑者「裕福な商人でした」
KGB「しかもブルジョワか。お前の妻は?」
容疑者「貴族の娘です」
KGB「資本主義の犬め!名を名乗れ!」
容疑者「カール・マルクスと申します」

Russian Anecdote

その2
有名なガガーリンの帰還を祝うパーティーにロシア正教のモスクワ総主教も参加していた。
総主教「宇宙を飛んでいたとき、神の姿を見たか?」
ガガーリン「見えませんでした」
総主教「わが息子よ、神の姿が見えなかったことは自分の胸だけに収めておくように。」
暫くしてフルシチョフがガガーリンに同じことを尋ねた。総主教との約束を思い出したガガーリンは先ほどとは逆のことを答えた。
ガガーリン「見えました」
フルシチョフ「同志よ、神の姿が見えたことは誰にもいわないように」

その3
「どうしてソ連は月に宇宙飛行士を飛ばさなかったのか?」
「未帰還者が出る恐れがあるから」

その4
アエロフロート(ソ連航空)の機内
スチュワーデス「お食事をお召し上がりますか?」
乗客「なにが食べられるのか?」
スチュワーデス「イエスかノーかでどうぞ」

Sinking_Boat

その5
神父「ウオッカは人類最大の敵だ、そんなものにどうして好きになれるんかね?」
農民「でも聖書に書かれている、汝の敵を愛せよと」

その6
ある時、スターリンが誘拐されてしまった。誘拐犯から犯行声明が届いた。
「身代金1000万ルーブル払え‼︎ もし払わなければ、スターリンを生きて返すぞ!」

その7
ある男が強制収容所に送られてきた。囚人たちが聞きいた。
「お前は懲役何年の刑だ?」
「20年だ。何も悪いことはしていないのに…」
「そんなことはあるまい。無実の罪の相場は懲役10年だぜ」

その8
「今度政府が懸賞付きで政治ジョークを募集するらしいぜ」
「へぇ〜、それで1等賞は何がもらえるんだい?」
「シベリアへの長期休暇さ」

その9
市民がパンを買うためには、長い行列に並ばなければならない。ついに、男の1人が怒ってこう叫んだ。
男「もう我慢ならない、俺はゴルバチョフを殴りに行く」と。しばらく経って、ショボンとした顔のその男が帰ってきた。並んでいた人はみな聞いた。
市民「殴ってきたのか?」
男「あっちにも列が出来てた」

その10
「我が国の強制収容所がとても待遇が良いと聞いた。本当か?」
「本当だ。5年前、友人の記者がその真相を確かめるべく強制収容所に調査に行った。気に入ったらしく、いまだに帰って来ないから」

その11
スターリンが川遊び中、川に落ちて溺れたところをたまたま助けた農民がいた。
スターリン『褒美をあげよう、何がいいか?」
農民「あんたを助けた事を国家機密にして欲しい」

【話の泉ー笑い】その八 エスニックジョーク その4 共産主義とロシア文学

ロシア文学の一部といえるかどうかは分かりませんが、ロシアの小話はロシア史の激変に敏感に反応しているようです。その時々の社会的、政治的な問題を強烈に反映しているといわれています。大日本百科事典によれば、ロシアは西欧諸国と比べると、歴史的な連続性を欠き、そのため安定した統一のとれた多様な文化を生み出すことができなかったともいわれます。その代わりに、豊かな口承文学であるフォークロー(folklore) が民衆の間に代々伝承され保持されてきました。「ブイリーナ」と呼ばれるロシアの民衆叙事詩、おとぎ話、伝説、歌謡は洗練された響きを持つと評価されているようです。

収容所群島

イワン四世(Ivan IV)からピュートル大帝(Peter the Great)、そしてスターリンに至る専制、弾圧、粛清のもとで人民はあえぎました。社会の後進性、立ち後れた制度、農奴制といった社会的な矛盾に人々が苦しむという歴史的状況はロシア文学は切り離せまないようです。社会評論や政治的発言の場がなかったことから、文学が唯一の演壇となったといわれます。識者らは、文学批評を通して文学作品を解説し、検閲の目をかすめて政治的、社会的発言をその中にしのび込ませる方法をとったのです。そのようにして、文学は「ロシア帝国の法と反体制との闘争の最も重要な果たし合いの場となった」といわれます。

1973年にフランスで発刊されたソ連の作家、アレクサンドル・ソルジェニーツィン(Alexander Solzhenitsyn)の「収容所群島」という記録文学はその代表といえそうです。当然ながらソ連では禁書扱いとなりました。ソルジェニーツィンは1970年にノーベル文学賞を受賞し、1974年に市民権を剥奪されて西ドイツへ国外追放されますが、ソ連崩壊後の1994年に帰国します。

Aleksandr Solzhenitsyn

1956年、第20回共産党大会の秘密会議においてフルシチョフ(Nikita Khrushchev)がスターリン批判の演説を行い、いわゆる「雪解け」時代に入ります。国内では非スターリン化が推進され、粛清の犠牲者の名誉回復、言論などの取締りの緩和により国情が変わります。ソルジェニーツィンは7月に流刑から解放され無罪となりました。