これから数回に渡り、アメリカの大学でにおける合格判定を巡る話題を取り上げます。2023年6月29日の木曜日、アメリカ連邦最高裁判所(Federal Supreme Court) は歴史的な判決を下し、ハーヴァード大学(Harvard University)とノースカロライナ大学(University of North Carolina) の入試プログラムを無効としました。大学における人種差別を考慮した積極的差別是正措置(Affirmative Action)を事実上廃止するとしました。日本と違い多民族がモザイクのように混ざる国です。もともと白人が政治や社会、経済を支配した歴史があります。そのため黒人奴隷の解放を巡る南北戦争が起こり、それでも根強く人種差別が続き、1960年代にマーチン・ルーサー・キング牧師らによる公民権運動の高まりによって制度上は人種差別は違法となりました。しかし、社会の至るところに目の見えない差別が今も起こっています。
大学での学びは、すべての人にとって重要なパスポートのようなものです。高等教育には多額の費用がかかるのはどこも同じです。特に貧富の差が激しいのが多民族国家です。アメリカはその代表といえるかもしれません。学力がついていても、貧しいが故に大学に入ることができないのが少数民族出身(マイノリティ)の若者に多いのです。そこで、大学は積極的差別是正措置という特別な採用枠を設けて、一定程度の学力がある少数民族の若者にも入学を許可しようとする仕組みが1980年代から多くの大学で始まりました。
アメリカの大学への志願者は、学力テストの他に全国レベルで科学からスポーツ、ボランティア活動などあらゆる分野で特別な業績や経験があるかどうかがも審査されます。特異な能力も入学の大事な要件なのです。それから人種などの出自も考慮されて、いわば総合的に調べられて合否の判定がくだされます。興味あることには、志願者が大学の同窓生の子弟であるとか、大学に多額の寄附をする家庭の子弟であるか、ということも合否の結果に反映されます。このようにアメリカの大学ではマイノリティの若者に特定の割合で入学させる仕組みを採用しています。これが積極的差別是正措置といわれる優遇措置です。今回、長年の判例を覆しこの措置が違法であると最高裁判所は決定したのです。