イスタンブルとソフィアの旅から その21 宗教と文化相対主義

二つの都市を訪ねながら宗教の及ぼした複雑な影響を考えています。特にイスラムによる統治が色濃く表れたバルカン半島のほんの一部を訪ねただけですが、学ぶことの多い旅でした。

「イスラム教とかイスラム主義は教条的で原理主義的なもの」ととらえる見方が強いのですが、それは誤解のようです。いろいろな考え方のイスラム主義者(ムスリム)が存在します。戒律を日常生活、政治や制度にも厳格に適用しようとする人々から、イスラム教の信仰を個人の生き方に留めようとする人々もいます。イスラム圏に存在する文化的、社会的、またジェンダーに関する生活上の制限に対しては、宗教的、非宗教的な手段によって抵抗するムスリムもいます。このようにイスラム主義を習慣、制度、パタン化された思考で理解しようとすべきではないと思われます。

アメリカの人類学者、ボアズ(Franz Boas)が文化相対主義(Cultural relativism)ということを提唱します。彼は、自身の文化を相対的に把握したうえで、異文化と相手側の価値観をとらえ、その文化、社会のありのままの姿を理解しようとすることを提唱します。文化の洗練さは外部の価値観によって測ることはできない、と考えのです。このような文化相対主義に基づいて、イスラム主義の多様性という側面を理解することも大事だと思うのです。

トルコは政治から宗教色を排除している国であることは既に述べました。宗教と政治の関係は複雑で微妙です。ただ明白なことは政教分離の原則は、近代社会の特徴であるということです。たとえば、国教を廃止したフランス。国の宗教的活動及び宗教への援助を禁じ、宗教の特権や政治上の権力行使を認めない日本もそうです。アメリカは、「宗教と国家の分離」ではなく「教会と国家の分離」を掲げ、教会と公権力の癒着を禁止しています。宗教団体に政治上の権力を行使させないだけではなく、公の場から宗教色を排除することで、宗教の領域と政治の領域を分けています。

しかし、今世紀はすでに自文化中心主義(ethnocentrism) という 民族、人種の文化を基準として他の文化を否定的に判断したり、低く評価したりする態度や思想が台頭しています。「Racism」という語を定着させた人類学者にMargaret Mead がいます。歴史は繰り返す、と云われます。”History repeats itself.”

イスタンブルとソフィアの旅から その20 リラ修道院 その4 色彩の競演

リラ修道院は海抜1,100mのところにあります。空を仰ぐとバルカン半島の峰で既に雪をかぶった標高2,729mとあるマリョヴィツァ山(Malyovitsa)が遠望できます。丁度、季節は紅葉の真っ最中。青い空、白い峰々、縞模様のアーチ型をした修道院の回廊や教会の柱や壁の白と黒。そしてフレスコ画。こうした素晴らしい色の競演をよそに、僧院は静かなたたずまいをみせています。

修道院に関して、前回イコンで飾られたイコノスタシスという壁のことを記しました。この壁は「聖障」と呼ばれています。聖所と至聖所を区切るのが聖障でです。聖所は礼拝堂内のことで、信者や観光客が案内されるところです。だが至聖所の中は見ることも入ることもできません。至聖所は天国をあらわすというのだそうです。リラ修道院を見学するのに拝観料はありません。だがいくばくかの献金(喜捨)をするのがマナーというものです。

修道院内にも宿坊があり、観光客は宿泊できます。一泊40〜45レフですから3,000円くらい。修道院の裏側に数件のホテルとレストランがあります。レストランは屋外テラスで暖かい日差しを受けながら食事を楽しむことができます。名物はこの地方の特産、鱒料理です。薄切りレモンが添えられ焼かれた大きな鱒がでてきます。それにワインを注文して賞味するのはなんともいえない気分になります。ワインはキリストの血を象徴するものです。

イスタンブルとソフィアの旅から その19 リラ修道院 その3 イコノスタシス

再度、リラ修道院のフレスコ画の話題を取り上げます。ソフィアにあるブルガリア正教会のアレクサンドル・ネフスキー大聖堂(Alexander Nevsky Cathedral)の内部は蝋燭がともされ、フレスコ画や天井の色がくすんでいます。しかし、リラ修道院は違います。19世紀に再建された聖母誕生教会はパウェル・イアノフ(Pavel Ioanov)によって設計されたとあります。1834年から1837年にかけて聖堂は完成し、5つの塔、3つの聖壇、2つの礼拝堂から成ります。そしてイコノスタシス(Iconostasis)という木造の壁には精緻な彫刻が施され、表面は金箔となっています。この完成には4人の彫刻師によって5年の年月を要したと記されています。そういえば、神田にあるロシア正教会ニコライ堂も多層式イコノスタシスとして知られています。

今も極彩色で輝くフレスコ画は、1864年に完成したと記されています。バンスコ(Bansko)、サモコフ(Samokov)、ラズログ(Razlog)といった町から画家が呼び寄せられたとあります。なかでも有名だったフレスコ画家はザハリ・ゾグラフ(Zahari Zograf) とディミタ・ゾグラフ(Dimitar Zograf)という兄弟です。

宿坊を中心とする建物は4階からなり300の部屋、4つの礼拝室、修道院長室、歴史博物館、図書室、厨房を擁しています。図書室には250記録文書や9,000冊の古文書が収蔵されています。今も4階は修道士の宿坊となり修行しています。

歴史博物館の秘蔵品は、ラファエル(Raphael)という修道士が彫った高さ50cmの木彫りの十字架。140もの聖書物語が彫り込まれています。十字架に彫られている人物は約1,500。一つひとつ人物の表情が異なっています。

歴史博物館には次のような英文の説明があります。
Dear Guests,
Welcome to the Ecclesiastic and Historical Museum of Rila Monastery. Founded in the 10th C. by the most worshipped Bulgarian Saint Ioan Rilski, Abbey has preserved through the ages exquisite examples of the Bulgarian and foreign ecclesiastic arts and crafts. Part of this priceless treasure is exposed in our exhibition. We sincerely hope that it will be also treasured in your hearts.

大切な用語を説明します:
 ecclesiastic 伝道的、宣教的
 monastery 修道院、僧院
 abbey 寺院、礼拝堂
 priceless かけがえのない、至宝の
 treasured 大事にする

イスタンブルとソフィアの旅から その18 リラ修道院 その2 フレスコ画

リラ修道院は訪ね甲斐のある歴史的な遺産です。その中心は、聖母誕生教会(St. Mary Nativity Church)の壁や天井に極彩色で燦然と輝くフレスコ画(fresco)といえます。

フレスコとは、「壁に漆喰を塗り、その漆喰がまだ「フレスコ(新鮮)」である状態で砂と石灰を混ぜて作ったモルタルで壁を塗って、その上に水だけで溶いた顔料で絵を描く方法」とあります。石灰がつくる結晶のなかに顔料の一粒一粒が閉じ込められるため、色が美しく、耐久性は抜群で非常に長期間、その色を保ち続けるのだそうです。

フレスコで想い出すのが、人類最古の絵画と言われるアルタミラの洞窟壁画(Cave of Altamira)です。我が国の高松塚古墳の壁画もそうです。時代はくだり、バチカン(Vatican)にあるシスティーナ(Sistine)礼拝堂にあるミケランジェロ(Michelangelo)が描いた「天地創造」、「最後の審判」、ラファエロ(Raphael)による「アテナイの学堂」、これらもフレスコ画です。

リラ修道院に戻ります。フレスコ画のモチーフはいうまでもなく聖書物語です。聖書の36場面が描かれています。礼拝堂内に入ると無数のイコン(icon)で飾られたイコノスタシス(iconostasis)という壁が目に飛び込んできます。金箔が施されています。この壁は「聖障」と訳されていて、正教会と東方諸教会の聖堂では、聖所と至聖所を区切るのにイコンで覆われたこうした壁が必ずあります。

神田にある通称ニコライ堂は、東京復活大聖堂(Holy Resurrection Cathedral)と呼ばれます。東方正教会の流れをくみます。聖堂内のイコノスタシスには、金と白金箔がはられています。ビザンチン様式のこの建物はあたりの景色に際立っています。神田川に架かるアーチ型の【聖橋】はこの聖堂のデザインと関連があるのではないでしょうか。

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