ウィスコンシンで会った人々 その22 「ペアハラ」と看護師辞職の事態

鳥取の県立養護学校で2015年5月、看護師6人全員が一斉に辞め、ケアが必要な児童・生徒に支障が出たというのは、異常事態としか思われない。一部の保護者からは、痰の吸引時間の遅れや点滴の仕方などに関し批判の声が寄せられていたという。看護師不足で時間通りに対応しきれない事情、さらには学校側の保護者対応の拙さもあるようだ。鳥取県の看護師にとっては、時間給が1,180〜1,460円というのだから、アホらしくてやっていられないという気分になったのだろう。同情したくなる。ちなみに、東京都は時給1,800円、大阪府は1,890円である。

看護師が全員辞めた理由だが、ある保護者による暴言に近い対応への反発だそうだ。そこで報道ではいわゆる、「モンスター・ペアレンツ」が盛んに話題とされた。これを「モンペ」というそうだ。もし保護者が「怒ったことは事実だ」とすれば、それは「ペアハラ」といわれるかもしれない。ペアレンツによるいやがらせ、ハラスメント(harassment)である。6人が一斉に辞めたという実態の背景には、保護者の言動、看護師の身分の不安定さといった問題性が考えられる。

子どもの対応が、少ない看護師に任され担任教師や学年主任などとの連携が不十分だったのではないか。看護師は威圧的な保護者を前にして孤立していたのではないか。子どもの対応については保護者を交えて個別の指導計画などを皆で話し合い、役割を分担することを確認していなかったのではないか。さらに看護師は指導計画すら知らなかったのではないかと危惧する。加えて看護師は、保護者からのクレームや要望に対応するためのマニュアルも知らされていなかったのかもしれない。

そこで、今回のような事態を回避するにはどうしたらよいかである。第一に保護者と教職員が遵守すべき行動の規範(Due Process)のようなものを作ることである。保護者には不満や不服の申し立てができる手順を明確にしておくこと、言動はどうあるべきかを伝えることである。学校側も保護者の言動が不適切な場合を想定して弁護士や最悪の場合、訴える権利を留保することを保護者にきちんと文書で伝えておくことである。

第二は、看護師を常勤とし個別の指導計画づくりや、その他学校業務において教師と対等に役割を分担することである。学校は、教師だけの単一集団では保護者の期待や不満に対応できない。看護師を孤立させないためにも看護師の常勤化は必須の措置である。現在の時間給は医療的ケアという仕事にしてはあまりに酷い。

第三は、第一で提案した行動規範を保護者と学校、地域社会に公開し、学校の姿をより可視化することである。毎月学校は「学校だより」とか「学校ニュース」を町内会組織などをとおして配布している。その中に、教師や保護者のハラスメントを防ぐためのお互いの了解事項など、行動規範を地域でも知って貰うことである。

第四は、看護師には男性も採用すべきである。全員が女性看護師であるために母親との対応がこじれたふしもある。本来、全面的な介護が必要な男子生徒には男性看護師が対応し、女子生徒には女性看護師が対応すべきなのである。生徒への導尿などの措置など,生徒の人権を今一度再点検すべきなのだ。「看護婦」の世界は過去のものとなったはずだが。

もしこのような対応を教育委員会も学校もとれないとすれば、「ペアハラ」はこれからも発生するかもしれない。そして学校は頑なに内部のハラスメントを隠そうとするに違いない。

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