アメリカ合衆国とニックネームの由来 Intermission 「親睦会とパトラック」

今は、都市では高低層マンションで生活するのが当たり前となりました。若い人は駅に近い所を選び、高齢者は持ち家の維持や買い物が大変なのでマンションに移りがちになります。このような住環境の変化によって、「向こう三軒両隣」というフレーズは聞かれなくなりました。住民の横の繋がりは疎遠になりがちになっています。

私は昨年、長屋のように40世帯が暮らす自分のアパートで始めて親睦会をお世話しました。この集まりのために幹事のわたしたちがしたことは管理会社から飲み物を提供してもらうこと、組合の管理費から数万円を支出して焼き肉の材料の買い出しをしたり、住居内の全ての子供へお土産を用意することでした。町内会の自主防災組織からは椅子と長テーブルを借りました。

親睦会に参加する世帯は6人分の一品を持参するというものでした。20世帯が参加したので20の料理を楽しむことになりました。いわばバフェスタイルの親睦会です。このような持ち寄りの食事会はパトラック(potluck)と呼ばれます。ポトラックは準備が楽でしかも住民が膳を持ち寄ることで会話がはずむのです。potluckには「あり合わせのもの」という意味もあります。

佐伯泰英の小説「酔いどれ小籐次」にもポトラックの光景が登場します。短く紹介しましょう。江戸は鎌倉河岸の大店から角樽と初鰹が新兵衛長屋に住む主人公の小籐次に届けられます。小籐次が大きな働きをしたそのお礼です。小籐次が近所にお裾分けをしようと鰹をさばいていると、長屋の住人勝五郎が声をかけます。

勝五郎 「酔いどれの旦那、井戸端に長屋中の膳を持ち出して、全員で涼みながら酒を飲むってのはどうだ」
小籐次 「悪くない趣向じゃな、」

新兵衛長屋の空き地に筵が敷かれると、住人が夕餉に用意していた膳を銘々抱えて筵の上に並べ、あちこらこちらに行灯が置かれて蚊遣りが焚かれます。

長屋の住人 「お祭りの縁日のようだな」

そこにすっかり惚けて子供にかえった住人の一人、新兵衛が娘のお麻に連れられてきます。

お麻 「お父っちゃん、鰹よ!
新兵衛 「ととか、ととじゃな、、、、このととうまい、」

無垢の赤子のような新兵衛も長屋のみんなに囲まれて初鰹と酒の相伴に預かるのです。「とと」とは幼児語で魚のことです。