文化を考える その31 街角の風景  今も人種差別が

先日、ミズリー州の街で黒人青年が警官に射殺される事件が起こった。オバマ大統領も市民に冷静さを呼びかけるほどであった。ことの顛末ははっきりしないが、根強い人種差別の歴史を思い起こす事件である。

人種差別を英語では「Discrimination」とか「Racial Segregation」という。この人間の考え方の源には、生まれつきの遺伝的な要素によって人の特徴や能力は決まっているのだから、別々に生きることが幸せなのだ、という思い込みである。そこから特定の人種に対する特別な信念や行動が生まれると考えられる。それが具体的に現れるのが人種差別とか人種の優越性の観念である。これは「レーシズム」(racism)という。

オックスフォード英語辞典(Oxford English Dictionary)によると、「レーシズムとは信念やイデオロギーのことであり、人種というのはそれぞれ共通の特性や能力を有する、それによって他の人種に対する優越性や劣等性をきめるもの」と記述されている。別の辞典では、「レーシズムとは人種によって固有の文化を形成する要素である」ともある。こうした定義で共通していることは、「遺伝」、「信念」、「特性」、「すみ分け」などが強調されることである。レーシズムによって、皮膚の色とか人種の違いが排他的な態度、優越的な態度と他人を蔑むこと、人権や自由を脅かす行為につながる。

南部アラバマ州では1950年代から「ジム・クロウ法」(Jim Crow)という人種分離法がつくられ、交通機関、駅、トイレ、映画館、学校や図書館などの公共機関、ホテル、レストラン、バーなどで白人と有色人種(the colored)を分離することが正当化された。やがて州都モンガメリー(Montgomery)で1955年に起こったローザ・パークス(Rosa Parks)逮捕事件が公民権運動の口火をきる。

パークスは、白人専用のバスに乗り込んで逮捕される。これをきっかけに、キング牧師(Martin Luther King Jr.)らがバス・ボイコットの運動で立ち上がる。運動は全米に広がり、1956年には合衆国最高裁判所が「バス車内における白人専用及び優先座席を違憲とする判決を出す。1963年8月にキング牧師に率いられたワシントン大行進。1964年7月に公民権法(Civil Rights Act)が制定され、長年続いてきた人種差別撤廃運動は終わりを告げる。

今日、法的には人種差別は完全に違法である。人種、文化、言語、信条などによって差別をすることは教育、就職、表現などにおいて禁止されているが、、、。このような社会が創られるまでは、幾多の困難や障壁があった。黒人奴隷が存在した。リンカーン(Abraham Lincoln)大統領が黒人の解放を訴え、それを機に南北戦争(Civil War)が起こった。そして奴隷解放が宣言された。だが、アメリカ社会にはいまだに目に見えない人種偏見が続いている。バラク・オバマ(Barack Obama)が大統領になったときの異例の報道はそれを物語る。

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