素人のラテン語 その二十二 Quartier Latinとソルボンヌ大学

英語で「 Latin Quarter of Paris」と呼ばれる Quartier Latinは、昔から学生街として有名です。ソルボンヌ大学(Sorbonne University)とも呼ばれるパリ大学をはじめ、高等教育機関が集中しています。ラテン語による学問の全盛期が今も息づいているようです。

1960年代、様々な反体制学生運動の中心地になったのがQuartier Latinです。1966年にストラスブール大学(Strasbourg University)で教授独占の位階体制に対する学生による「民主化」要求から始まります。1968年はベトナム戦争が最も激化した年です。その3月にはベトナム戦争反対を唱える国民委員の検挙に反対する学生運動に発展します。さらにソルボンヌ大学の学生の自治と民主化の運動に継承されていきます。様々な反体制学生運動の中心地であったのがQuartier Latinです。

高等教育機関グランゼコール(Grandes Écoles)の一つで高度な専門職業人を養成することを目的とする高等師範学校(École Normale Supérieure)、 パリ国立高等鉱業学校(École des Mines de Paris), ロースクールで知られるパンテオンーアサス大学(Panthéon-Assas University) 、スコラ・カントルム音楽学校(Schola Cantorum)、 ジュシュー・キャンパス(Jussieu university campus)などです。ジュシュー・キャンパスは、パリ第6大学とパリ地球物理研究所などの複合研究施設のことを指します。PSL Research Universityもあります。PSLは「Paris Sciences & Lettres」の略語です。

そしてソルボンヌ大学のことです。この大学は通称パリ第四大学と呼ばれています。1257年にロベルト・ソルボン(Robert de Sorbon)という神学者によって設立された由緒ある大学です。ソルボンはルイ9世(Louis IX)の庇護を受けます。ルイ9世は死後、カトリック教会より列聖されSaint-Louis(サン・ルイ)と呼ばれるようになります。

そろそろラテン語の話題がなくなりました。今回でこのテーマは終わりとします。

素人のラテン語 その二十一 カルチエ・ラタン(Quartier Latin)

ジャコモ・プッチーニ (Giacomo Puccini) の作曲した4幕オペラに「ラ・ボエーム(La Boheme)」があります。その主役はお針子のミミ (Mimi)と詩人のロドルフォ(Rudolfa)。二人はヨーロッパではジプシーと呼ばれていたボヘミアン(Bohemian)で、恋仲の二人はパリの下町に住んでいます。

この下町とは、カルチエ・ラタン (Quartier Latin) と呼ばれてきました。貧しいながら芸術家を目指す若者が集まるところにミミとロドルフォも暮していたという設定です。

Quartier Latinのカルチエは「地区」、ラタンとは「ラテン語」のことですから、さしずめ「ラテン語がひしめく所」となります。フランス語が未統一であった時代、当時学問や教会において国際共通語であったのがラテン語です。ヨーロッパ各地から集まった学生たちがラテン語で生活していたようです。

12世紀の中頃、ピエール・アベラード(Pierre Abélard)という哲学者で思想家、神学者が教え子の学生を連れてQuartier Latinに住むようになります。当時は中世ですからラテン語がいわば全盛期の頃です。学生が集まり始めたのはアベラードの影響が大きかったといわれています。Quartier Latinの今は、上品な下町となり多くのビストロやレストランが学生や若者を惹き付けています。

素人のラテン語 その二十 日本語シソーラス

ようやく日本語のシソーラスを紹介する番となりました。八王子市立図書館の書架にあるシソーラスとしては、2002年に講談社から出た「類語大辞典」と2003年に大修館書店からでた「日本語シソーラス類語検索辞典」ともう数冊があります。

「類語大辞典」は8万項目という分量を誇ります。多くの語を意味ないし概念にそって配列するのが普通ですが、このシソーラスでは逆に語彙の根幹となる比較的少数の語を細かく見ながら、その意味の繋がり具合を調べ、それにもとづいて分類の枠を考えていることです。分類の枠となるのは、和語でいう単純語ではなく、動詞や形容詞です。名詞に比べて動詞や形容詞は数が少なく分類しやすいこと、さらに名詞の多くが動詞や形容詞を元につくられていること、副詞は動詞を元にして作られるという事情もあります。動詞や形容詞といった用言は2,500語くらいといわれます。

このシソーラスは使い慣れないと混乱しがちになります。どの語句が自分が求める表現なのかが決めにくいのです。意外に収録する語彙の幅が狭いか、拡大解釈しすぎているきらいがあります。「思う」という語句では、「すでにわかっている事柄にあんとなく、また情緒的なはたらきかけをする」で良いのかという疑問です。「思う」は意志的な行為ではないでしょうか。

「日本語シソーラス 類語検索辞典」は1,044のカテゴリーに分かれ、延べ33万語の語句からなります。カテゴリーの中に意味の近さによって小語群が含まれます。関連語、対語、形容、表現語句、季語、枕詞、医学、聖書、仏教、古語などから成ります。ただし、分類の構成を優先せず、多くの言葉や表現を蒐集し、それを連想に基づいて練り上げられています。日本語使用の実態や、言葉の世界に定着した日本人の感性を反映していて「日本人の文化・感性の総索引」と呼ばれるような内容となっています。

本文が984頁ですが索引は581頁におよびます。索引を見るだけで語句の意味の広がりが実感できます。意味の同一性よりは連関関係を重視しています。
例えば、「良い人」と三拍子揃った人、あの人の人品は見事、というように言い換えることができます。「簡単と」いう語では、イージー、楽勝、分かりやすい、話が早い、初歩のように連想を収録しています。もう一例、「重要」では、肝要、大切、必要、主要、最有力、メイン、ただ事でない、必要欠くべからず、特筆に値する、一面トップ、鶴の一声、メッカといった按配で自分でどのように表現するかの選択が広がります。

「割り切れない思い」という語句をこのシソーラスは次のように説明しています。「釈然としない」、「判然としない」、「つかみ所がない、「とらえ所がない」、「腑に落ちない」、「辻褄があわない」、「前後に分かず」とい具合です。どの言葉を使ってもよいことになります。このように言い換えたい言葉を探すことができます。関連の深い言葉は隣り合って表示されているので、ぴったりした表現が見つかります。

素人のラテン語 その十九 「Roget’s Thesaurus」

本稿で「Roget’s Thesaurus of English Words and Phrases」の初版では、単語の選び方は、次のように6つ(Class)に分類しているということを述べました。しかし、最新版を見ますと8つになっています。次のように物理学(Physics)と情動(Sensation)が追加されています。

I 抽象的関係 (Abstract Relations)
II 位相・空間 (Space)
III 物理学(Physics)
IV 序と時間 (Matter)
V 情動 (Sensation)
VI 間性 知性 (Intellect)
VII 意志、望むこと (Volition)
VIII 愛情 (Affections)

最新版では、語と語句の数は250,00となっています。シソーラスは通常は、同義語や反義語を集積する辞書といわれがちですが、「Roget’s Thesaurus」は索引から語や語句を調べる方式となっています。辞書では単語の意味を探します。ですが「Roget’s Thesaurus」の利用者は、まず考えているテーマから出発し、そのテーマに沿った語や語句を見つけるのです。ですからいろいろな知識を構成するという稀な学究的な内容となっています。

例えば、読者が「being」とか「reality」という状態を示す適切な語を探すとしますと、「Roget’s Thesaurus」は「existence」という語へと導くようになっています。「being」という語の同義語は「subsistence」や「essence」があります。ラテン語の「esse」が語源となっているという説明もついています。「reality」は「actuality」とか「empirical」、「objective existence」という意味や使い方もできるとあります。実存主義と訳される「existentialism」の説明もでてきます。こうした語句の広がりは辞書にはありません。こうした語彙の深く広い関連性を示すのがシソーラスの独壇場といえましょう。

素人のラテン語 その十八 シソーラスの例 「Abandon」から

最近では,外国人の学習者に特化したシソーラスも出てきています。Longman Language Activatorや Oxford Learner’s Thesaurus等がその例です。英語を母国語とする者向けのシソーラスにくらべ、類語の数を厳選し,類語間の意味の違いを英英辞典のような平易な定義で解説するのが特徴です。口語的な表現を重視したLongmanと学術的な表現を意識し,フォーマルな語を豊富に収録したOxfordには、それぞれの特徴があります。英語学の研究者や英語教員ならこの二つのシソーラスを必ず座右におくべきものでしょう。

無味乾燥なアルファベット順に単語を並べ意味を載せているだけでは、退屈するものです。しかし、「意味」という観点で単語を並べ替え,それぞれの語の間に有機的なつながりをもたせたシソーラスは,単語の羅列のように見えますが,じっくり読むと意外と面白いものです。シソーラスを使いこなすと,一見同じような顔をしている単語も,よくよく見ると姿形はそれぞれ異なり、独特な個性があることに気づきます。その例を【Abandon】という単語で調べてみましょう。【Abandon】には5つの異なった意味と使い方があるという例です。

1) give up, yield, surrender, leave, cede, let go, deliver, turn over, relinquish
文例
I can see no reason why we should abandon the house to thieves and vandals.
泥棒などに入られる家を放置する理由がわからない。

2) depart from, leave, desert, quit, go away from
文例
The order was given to abandon ship.
船から待避する命令がでた。

3) desert, forsake, jilt, walk out on
文例
He even abandoned his financee.
彼は投資家を見捨てた。

4) give up, renounce, discontinue forgo, drop, desist, abstain from
文例
She abandoned cigarettes and whisky after the doctor’s warning.
医者の忠告で煙草とウィスキーをやめた。

5) recklessness, intemperance, wantonness, lack of restraint, unrestraint
文例
He behaved with wild abandon after he received the inheritance.
遺産を受け取ると自由奔放に振る舞った。

素人のラテン語 その十七 Roget’s Thesaurus of English Words and Phrases その二 語のラベル

夏目漱石の授業は、極めて魅力的な授業であったというエピソードがあります。漱石は第五高等学校や第一高等学校、その後東京大学で教えます。彼の授業の魅力は、使われた語や文章解釈が的確であったことだといわれます。授業で使われた個々の語が強く若者に訴えたという反面、講義があまりに分析的で硬いものだったという不評もあったようです。授業が硬いか柔らかいかの違いこそあれ、授業には特色があったのだろうと察します。

Roget’s Thesaurusでは、語には必ず文例が掲載されています。特に、同義語の数は極めて多く、その文例を読むとそのまま自分の文章を作れるほど親切です。語によって共通した意味の例文と異なった意味の例文となっています。一つの語でもその使い方が異なるということを読者に理解させようとしています。

次ぎに索引が充実していることです。その量はシソーラスの半分を占めるほどとなっています。同類語、異義語などが網羅されています。交叉索引もあり、それを辿っていくと新しい意味や使い方が理解できるように工夫されています。以下は交叉索引の一例で「supercilious (ごうまんな、横柄な)」がありますが、つぎのような索引が伴っています。 これは「super」とう接頭辞から由来することがわかります。
superior (上級の 上質の)
superior (指導者、監督者)

語のラベルもしっかりと付けられています。たとえば、口語体(colloquial)、俗語(slung)、昔風(archaic)、流行遅れ(old-fashioned)、技術的(technical)、読み書き能力(literacy)、国別の使い方、綴り方(spelling)といったことです。例えば、「subway」をみると、アメリカ英語では地下鉄、イギリス英語では地下トンネル、といった説明です。

素人のラテン語 その十六 Roget’s Thesaurus of English Words and Phrases その一 使用頻度の高いもの

これまでなんども引用してきたロジェ・シソーラス (Roget’s Thesaurus of English Words and Phrases) の肝心な内容を説明することにします。ロジェはスウェーデンの動物・植物学者であった(Carl von Linne)ロジェの階層分類体系を参照してこのシソーラスを作ったとされます。

最初に行った分類作業ですが、まず1,000の概念をおおむね6つに分類します。そして、単語の上位や下位関係、部分や全体関係、同義関係、類義関係などによって単語を分類していきます。

Roget inventing the Thesaurus – “Roget, it’s wonderful; amazing; incredible, but where do you get the idea form?”

単語の選び方は、次のように分類しています。
I 抽象的関係 (Abstract Relations
II 位相・空間 (Space)
III 序と時間 (Matter)
IV 人間性 知性 (Intellect)
V 意志、望むこと (Volition)
VI 愛情 (Affections)

以上の大まかな分類で、「V 意志、望むこと(Volition)」というのは少々理解が難しいですが、ロジェが思考して提案したことですからよしとしましょう。

アルファベット順に単語を並べ,意味を載せ簡単な文例を挙げる辞書とは異なり、類語の数を厳選し,類語間の意味の違いを平易な定義で解説しているのがわかります。語は、使用頻度の高いものが選ばれていて、他の辞書のようになんでもかんでも載せることはしません。専門用語 (jargon) も省いています。語は同義語や反義語が多いものも選ばれています。

素人のラテン語 その十五 シソーラスは全文検索システム

リンネ(Carl von Linne)の分類学の貢献は、ピーター・ロジェ (Peter Mark Roget ) が「Roget’s Thesaurus of English Words and Phrases」を著作するとき、言葉を同義語や意味上の類似関係、包含関係などによって分類することに役立ったといわれます。

  シソーラスとは、言葉を同義語や意味上の類似関係、包含関係などによって分類された辞書、あるいはデータベースです。一般的な辞書では、言葉はアルファベット順や50音順に整理されますが、シソーラスでは言葉が大分類から小分類にかけて体系的に整理されるのが特徴です。それによって同義語から広義・狭義の類義語、反義語などを効率的に調べることが可能となるのです。

私たちが日常的に使っている自然言語をコンピュータに処理させる一連の技術に「自然言語処理」があります。今は人工知能(AI)と言語学の一分野といわれます。自然言語処理においては、シソーラスは全文検索システムなどにおいて利用されています。例えば、日本を表す表現としては、「アメリカ合衆国」の他にも「米国」、「アメリカ」、「USA」、「US」など複数の表記があります。シソーラスにこれらの言葉が登録されていれば、「USA」と検索した場合でも「米国」をキーワードとした文書を検索することができます。逆に、シソーラスの処理が介在していないと、意味は同じ「米国」でも「US」と表記している文書を検索から漏らしてしまうのです。

シソーラスでは、対象の語意義素を次のように分類して構成されます。一定の関連のもと共に扱われることが多い表現として、 関連語とか関連表現があります。次ぎに、対象の語と何かしら関連のある表現があります。 類義語(synonym) 、対義語、反義語(antonym) 、 さらに上位概念や下位概念、 同一概念、 同位語 、連想語 、近接語、上位語や下位語といった関係です。

素人のラテン語 その十四 リンネの分類学上の貢献とシソーラス

「Roget’s Thesaurus of English Words and Phrases」という「英語語句宝庫」についてです。この辞典についての特徴を説明することにします。18世紀の生物学者、植物学者であったカール・フォン・リンネ(Carl von Linne)というスウェーデン人がいました。彼は後に「分類学の父」と称されるようになります。分類学(taxonomy)は、事象などについて互いの関係を位置づけるための体系を構築する学問のことです。

リンネの分類学上の功績は、二名法という植物の階層分類体系を創設したことであるといわれます。リンネ以前には,生物に名前をつける命名法は記述的なものであって,属名のうしろに形容詞などをつけて種の形質を記述して生物名としていたようです。しかし,このような方法では,後になって似かよった種が発見されたとき,この二種を区別するためには,さらに新しい形容詞をつけ加える必要が生じ,複雑な生物名となって実用上困ることになることになります。

そこで,リンネは属名(generic name)と種名(specific name)をつなげた学名(scientific name)で種の名前を二つの言葉の記号によって表現する二名法を考案します。これが、現在世界の学会で使われる「リンネ式階層分類体系」です。オリーブ(olive)という樹の表記を調べると、次のようにいくつかの階層に分類されています。

界 : 植物界 Plantae
階級なし : 被子植物 angiosperms
階級なし : 真正双子葉類 eudicots
階級なし : キク類 asterids
目 : シソ目 Lamiales
科 : モクセイ科 Oleaceae
属 : オリーブ属 Olea
種 : オリーブ O. europaea
学名 : Olea europaea

こうした世界共通の分類の仕方によって学術研究や調査の結果の分析が可能になるのです。リンネの分類体系によって、言葉を同義語や反義語、意味上の類似関係、包含関係などを網羅するシソーラスの開発につながっていきます。

素人のラテン語 その十三 シソーラスと類語辞典

私は文章を書くとき、辞典や百科事典を必ず使います。それで思い出す二つの出来事があります。高校の英語の授業で英文の訳を指名されたときです。”Power of Hitler became gradually strong” といった文章を翻訳するときです。私は「ヒットラーの力が頭をもたげてきました」と訳したのです。すると先生が、「頭をもたげてきたというのより、”台頭してきた”という文章にしなさい」というのです。もう一つは北海道大学での教養部での英語の時間で、教授が「大学生になったのだから英英辞典を使いなさい」という言葉です。

  「頭をもたげる」というは、なんとなくが単調な響きがあります。「台頭してくる」という文章のほうが、的確な表現であることに気がつきます。このように、高校生から大人になると当然ながら言い換えが可能な違う単語を使うことが期待されてきます。

英英辞典についてですが、日本語で文章を作るときと同じように、英語でもそれ相応の単語を使い文章化しなければなりません。例えば論文は、専門用語とか業界語を使うのは当然としても、文章自体が洗練されていなければなりません。中学校で習う単語は専門用語になりません。しかし、より大人の単語を使うとしてもその語彙を知っていないと使えません。あるアメリカ人から「交際する」という表現の場合、「intercourse」という単語を使うのは誤解を受けると云われたことがあります。確かに辞典には「交際」という説明もありますが、「性交」が「intercourse」の主たる意味なのです。

単語とか語彙の使い方を学ぶには辞書だけでは不十分です。どうしても英語語句辞典とか類語辞典などが必要となってきます。こうした辞典には、単語を使った文章が例として掲載されています。単語の正しい使い方を学ぶには英和辞典とか和英辞典では不十分なのです。

英語語句辞典の代表が「Roget’s Thesaurus of English Words and Phrases」です。1852年、英国でピーター・ロジェ (Peter Mark Roget ) が、語彙を意味によって分類します。この辞典は通称、「英語語句宝庫」といわれ英語語句辞典の始まりといわれています。”Thesaurus”とはギリシャ語で宝物庫という意味だそうです。我が国では、通称「シソーラス」と発音されています。