どうも気になる その15 発達障害と診断と治療 その3 AD/HD

医学上の診断には、多くの場合薬の処方が伴う。そして薬剤師、看護師、そして医療費を負担する納税者がかかわる。薬剤の処方には本人のみならず社会の負担にもつながる。そして皮肉にも企業の利潤にもつながる。

もう少しDSMの診断分類に触れる。DSMー4では注意欠陥多動(Attention Deficit/Hyperactive Disorders: AD/HD)は「破壊的行動障害(Disruptive Behavior Disorder )」というカテゴリに入っていた。DSMー5では「神経発達障害(Neurodevelopmental Disorder)」に入るとされた。だが診断は一種の「仮説」を提供するくらいのものと考えられまいか。正しいということはないのだからである。

さて、アレン・フランセスの本に戻る。フランセスらは、DSMー4の編集には議論を尽くし慎重に作成したと書いてある。それでも子どものAD/HDの診断は15%増加すると見込んだ。しかし、実際には3倍に増加したというのである。感情の高ぶりの波が大きい双極性障害は40倍、自閉症は20倍になったともある。医師による診断の基準が曖昧になり診断のインフレーションが続いたのだ。

DSMー5の登場により、さらなる大きな間違いが起きている。それは新しい障害のカテゴリ化によって「新たな患者」を生んでいることだ。これはDSMー5の過度に広げた診断の網と編み目の縮小化によって健常な範囲にあると考えられる者も引っかかるようになったからである。このように過剰な診断が下され、不必要で不適切な量の薬が処方され、危険な副作用に悩むことが懸念される。製薬会社はしめしめとばかり、行き渡る疾病の広がりに伴う商法に新しい患者を招き入れていく、とフランセスは警告している。

フランセスは云う。DSMー4は誤用され診断上のバブルを生んだ。そして三つの新しい虚構の精神疾患である自閉症、注意欠陥多動症、双極性障害の増大を防ぐことができなかった。さらに、盛んに行われた診断上のインフレに対する措置を持たなかった。そのため精神医学の領域がその能力を越えて拡大したのである。DSMー5は不用意な診断基準を定めたため、ネガティブな成果しかもたらさない。だがDSMー5によって、「素晴らしく希望に満ちたパラダイムシフトが生まれた」と精神医学界ではいわれている。

フランセスはさらに云う。過度な診断によってもたらされるものは、極めて高くつき無視することができない。なぜなら新しく診断された者と社会全般にその影響が及ぶ。この診断のインフレによって多くの「患者」が抗うつ薬、向精神薬、抗不安薬、睡眠薬、鎮痛剤に依存することになりかねない。そうした有様は、まるで薬剤が花火のように吹き上げられるようなものだ。

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