ウィスコンシンで会った人々 その113 酒噺 「禁酒番屋」

「人、酒を呑み、酒、酒を呑み、酒、人を呑む」という教訓めいた言葉がある。酒は百薬の長であり、依存症やアルコール性肝障害にもなりうる。日本人の半数は遺伝的にアルコールを分解する力が弱いといわれる。そのあたりの按配を考えて酒を嗜みたい。

ある藩で月見の宴席が開かれた。そこで酒の上の刃傷沙汰が起き若侍二人が死ぬ。それ以来殿、様から禁酒令が出た。主君自身も酒を断つことを宣言した。しかし、なかなか禁令が行き届かず、チビリチビリやる者が続出する。これでは駄目だと門の脇に番屋を建てて、飲酒の点検と酒の持ち込みを厳しく取り締まった。いつしか人呼んで禁酒番屋といわれるようになった。

酒好きな近藤という侍が贔屓の酒屋を訪れ、五合升で2杯を平らげた。さらに何とか工夫して番屋をかいくぐり、自分の小屋まで寝酒として一升届けてくれと頼む。酒の配達が露見すれば営業停止にもなりかねない。店の者は仕方なく、小僧の一人に知恵をつけて酒を届けさせることになった。徳利を下げては門をくぐれない。最近売り出された”カステラ”を買ってきて、五合徳利2本を入れ替えて持ち込めば分からないと言い出した。小僧は菓子屋のなりをして番屋にいく。

番兵 「その方は何者だ!」
小僧 「向こう横町の菓子屋です。近藤様のご注文でカステラを持参しました」
番兵 「近藤は酒飲みだが菓子を食べるようになったのかな? 間違いがあっては困る、こちらに出せ」
小僧 「お使い物で、水引が掛かっています」
番兵 「進物か。それなら通れ」、「アリガトウございます。ドッコイショ」
番兵 「待て!今『ドッコイショ』と言ったな」
小僧 「口癖ですから」
番兵 「役目の都合、中身を改める、そこに控えておれ、、」

番兵が風呂敷をとくと徳利が出てくる。

番兵 「徳利に入るカステラがあるか!」
小僧 「最近売り出された”水カステラ”でございます」

番兵は、水カステラといわれた徳利を口にしそれを全部飲んでしまった。そして、”この偽り者”と叫んで小僧を追い返してしまう。店に帰って相談し、今度は油屋に変装して”油徳利”だと言って通ってしまうと支度を整えて出かける。

小僧 「お願いでございます」
番兵 「通〜れェ」 先程と違って役人は酔っている。」
小僧 「油屋です。近藤様のお小屋に油のお届け物です」
番兵 「間違いがあっては困る、こちらに出せ。水カステラの件があるから一応取り調べる」
番兵 「控えておれ、控えておれ。今油かどうか調べるから、、」
番兵 「なんだこれは! 棒縛りだ、この偽り者! 立ち去れ!」

またもや失敗。都合二升もただで飲まれてしまった。腹の虫が収まらない酒屋の亭主。そこで若い衆が、今度は小便だと言って持ち込み、仇討ちをしてやろうと言いだす。正直に初めから小便だと言うのだから、こちらに弱みはない。皆で小便を徳利に詰め番屋に出かける。

小僧 「近藤さまに小便をお届けにきました」
番兵 「なに、小便と? 初めはカステラと偽り、次は油、またまた小便とは、、、」
番兵 「これ!そこへ控えておれ。ただ今中身を取り調べる」
番兵 「今度は熱燗をして参ったとめえるな。けしからん奴。小便などと偽りおって、」
番兵 「手前がこうして、この湯のみへついで…………ずいぶん泡立っておるな、」
番兵 「ややっ、これは小便。けしからん。かようなものを持参なして、、、」

小僧 「ですから、初めに小便と申し上げました」
番兵 「うーん、ここな、正直者めが、いや不埒なものを、、、」

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