懐かしのキネマ その85 【スリ】

原題は「PICKOCKET」。「スリ」という意味です。1960年にフランスで作られた名画です。社会の中で行き場を見失った貧しく寡黙な一人の青年が、スリという行為に生きがいを求め、その所業にのめりこんでいく一方で、現実の営みから離脱し、人としての感情も希薄になっていく様を描いた作品です。フランス映画はアメリカ映画と違った風趣があります。是非観ていただきたい作品です。

Michel

貧しい大学生ミシェル(Michel)は、母から離れ安アパートで暮しています。ふとしたきっかけで、ロンシャン競馬場(Longshan Racecourse)で、女性のバッグから金をスリ取ります。自分にスリの才能があることを発見します。一度は刑事に捕まったものの、証拠不十分で釈放されますが、再び他人の財布を狙い出します。母にその金を届けた時、隣室の娘ジャンヌ(Jeanne)に会います。小才のきく真面目な友人ジャック(Jacques) に、ミシェルは仕事の世話を頼みます。

ミシェルは、仕事へ行く地下鉄でスリの犯行を目撃し惹き付けられます。練習ののち最初の犯行は成功します。時には失敗しますが、ジャックと喫茶店にいる時、かつて尋問されたペレグリ警部(Pelegri)に会います。彼はミシェルになぜか目をつけています。やがてその手口は、仲間を引き込んだ組織的なものになっていきます。本もののスリが彼をアパートの出口で待っています。見込まれた彼は種々の手口を教えられ銀行の前でスリをし、駅では三人で組んでかせいでいくのです。

ミシェルの母が亡くなります。葬儀にはジャンヌも参列しています。警部のペレグリがアパートを訪ね、盗んでいたお金を所持していたことを伝えます。彼はその金がミシェルが稼いだものと考えます。しかし、ミシェルを告訴しません。

カメラは「スリ」の行為について、その手の動きをクローズアップさせ、青年と仲間が連係プレーで繰広げる数々の華麗なる手口を流れるようとらえています。青年の淡々と抑揚のないモノローグを朗読し、若干の台詞のやり取りがあるだけです。その台詞も棒読みに近い語りかけですで、登場人物たちの動きも必要最小限にとどまっています。フランス映画の名作といえるのではないでしょうか。

懐かしのキネマ その84 【カッコーの巣の上で】

原題は【One Flew Over the Cuckoo’s Nest】といいます。この題名の意味は少し勉強しないと理解できそうにありません。荒筋を紹介することにします。主人公のマクマーフィー(Patrick McMurphy)は刑務所の重労働から逃れるために、偽って精神病院に入院してきます。向精神薬を飲んだふりをしてごまかし、ラチッド婦長(Mildred Ratched)の定めた病棟のルールに次々と反抗していきます。グループセラピー(group therapy) などをやめてテレビでワールドシリーズを観たいと主張し、他の患者たちに多数決を取ったりなどします。最初は患者たちは決められた生活を望むのですが、マクマーフィーのやり方に賛同するようになります。

Patrick McMurphy

他の患者と無断で外出しボートに乗せて、マクマーフィーの女友達とともに海へ釣りへ行ったりします。こうした反抗的な行動が管理主義的なラチッド婦長の逆鱗に触れ、彼女はマクマーフィーが病院から出ることができないようにしてしまいます。ある日患者が騒動を起こした際、止めようとしたマクマーフィーも一緒に、お仕置きである電気けいれん療法(electroconvulsive therapy) を受けさせられてしまいます。マクマーフィーは、しゃべることのできないネイティブアメリカン(native American)であるチーフ(Chief)とともに順番を待っていますが、実際は彼がしゃべれないフリをしていることに気づき、一緒に病院から脱出しようと約束します。しかしチーフは、自分は小さな人間だとその誘いを断るのです。

Mildred Ratched

クリスマスの夜、マクマーフィーは病棟に女友達を連れ込み、酒を持ち込んでどんちゃん騒ぎを始めます。一騒ぎ終わった後の別れ際になって、ビリー (Billy)が女友達の一人を好いていることに気がつきます。ビリーはマクマーフィーに可愛がられています。マクマーフィーは、女友達にビリーとセックスをするよう頼み込み、二人は個室に入っていきます。二人の行為が終わるのを待っている間、マクマーフィーは酒も廻りつい寝過ごしてしまいます。翌朝、乱痴気騒ぎが発覚し、そのことを婦長からビリーは激しく糾弾され、母親に報告すると告げられます。そのショックでビリーは自殺してしまいます。マクマーフィーは激昂し、彼女を絞殺しようとします。婦長を絞殺しようとしたマクマーフィーは他の入院患者と隔離されてしまいます。

チーフはついに逃げ出すことを決意し、マクマーフィーを待っています。戻ってきたマクマーフィーは病院が行った治療ロボトミー治療(lobotomy)によって、もはや言葉もしゃべれず廃人のような姿になっています。チーフはマクマーフィーを窒息死させ、窓を破って精神病院を脱走するのです。

懐かしのキネマ その83 【追想】

1956年制作の歴史ドラマ映画です。ロシア帝国(Russian Czar)のアナスタシア皇女(Anastasia Romanov)が実は生存しているという伝説を下敷きにして作られた映画で原題は【Anastasia】となっています。

Anastasia Romanov

10代の若き皇女アナスタシアを含めて、ロシア皇帝ニコライ2世(Tsar Nicholas II) の一家が十月革命(Russian Revolution)の後に赤軍のボリシェヴィキ(Bolsheviks) によって殺害されたと推測されてから10年が経過します。ロシア革命で反ボリシェヴィキである白軍(White Russian) の将軍ボーニン (General Bounine)はニコライ2世が4人の娘のためにイングランド銀行(Bank of England)に預金した1000万ポンドのロマノフ家の遺産に目をつけます。ボーニンは街で出会った記憶喪失(amnesia)の女性アンナ・ニコル(Anna Nicholas)を、生存が噂されるアナスタシア皇女に見立てて遺産を手に入れようと、彼女に各種のレッスンを施して「本物」らしく仕立てます。

デンマーク(Denmark)で甥のポール公(Prince Paul) と余生を過ごす皇太后フェドロヴァナ(Empress Marie Feodorovna)は、アンナと涙の対面をします。ふとした妙な咳から皇太后は彼女が本物のアナスタシアであることに気付いたのです。資産目当てでボーニンに協力するポール公とアンナの数週間後の婚約発表も決まるのですが、ボーニンのアンナへの想いも「本物」になってしまい、二人が愛し合うという誤算が生じてしまいます。

ポール公とアンナの婚約発表当日、披露の場にボーニンとアンナの姿はありません。孫娘が行方不明となる事態に、全てを承知していた皇太后は「芝居は終わった。家にお帰りください」と招待客に告げるためにポール公を伴って会場に向かうのです。

懐かしのキネマ その82 【お熱いのがお好き】

1958年に製作されたコメディ映画の傑作の一つといわれます。原題は【Some Like It Hot】。なんといってもマリリン・モンロー(Marilyn Monroe)が、酒場で「I Wanna Be Loved by You」を歌う場面が一世を風靡します。偶然殺人事件を目撃してしまった2人のバンドマンは、追われる身になります。カツラと化粧を施し女性バンドの中に潜り込み、ギャングの目を欺こうとすることからシーンは始まります。

1929年2月のシカゴの麻薬街です。ジョー(Joe)というサキソフォーン(saxophone)演奏者とジェリー(Jerry)というベース(double bass)演奏者がいます。2人は、ギャングスターであるスパッツ(Spats Colombo)が経営するもぐり営業の酒場で働いています。チャーリー(“Toothpick” Charlie)という男の密告で警官が酒場を強襲します。ジョーとジェリーは逃走します。二人は、チャーリーが聖ヴァレンタインデイ(St. Valentine Day)の虐殺のように、撃たれてしまうのを目撃します。スパッツとギャング仲間は2人が逃走したことを知ります。ジョーとジェリーは街を抜け出し、変装してジョセフィーンとダーフィン(Josephine and Daphne)と名乗り、スウィートスー&シンコペーター(Sweet Sue and her Society Syncopators)という女性バンドに潜りこみます。そこで2人は、女性歌手でウクレレ奏者であるシュガー・ケイン(Sugar Kane)に出会います。

Sugar Kane

ジョーとジェリーは変装しながらもシュガーに惚れていきます。シュガーは、ジョーに自分を利用しようとした男性のサキソフォーン奏者と縁を切っていると伝えます。そして、フロリダ(Florida) で優しそうで眼鏡をかけた百万長者の男と出会いたいというのです。フロリダヘの列車の中で、禁止されたパーティが開かれ、ジョセフィーンとダーフィンはシュガーと親密になります。しかし、女性の変装をしており、シュガーに言い寄ることができないのが残念です。

マイアミ(Miami)に着くと、ジョーは二度目の変装をして、自分は百万長者でシェル石油の御曹司だといってシュガーに求婚します。彼女には無関心を装うのです。そこに百万長者でマザコンの年いった男、オズグッド・ジュニア(Osgood Fielding III)がダーフィンを追いかけ回します。ダーフィンが断るたびにオズグッドの食欲は増すといった塩梅です。オズグッドは自分のヨットでのシャンパンディナーにダーフィンを招待します。

ジョーはジェリーをオズグッドの相手をさせておいて、自分がオズグッドのヨットにシュガーを載せて楽しみます。ヨットの上で、ジュニアに変装したジョーは、自分には心理的なトラウマがあってインポであるが、自分を癒してくれる女性なら喜んで結婚するとシュガーに言い寄るのです。

シュガーはジュニアの精力をかなり掻きたてます。他方、ダーフィンはオズグッドとタンゴ「ラ・クンパルシータ(La Cumparsita)」を終日踊るのです。ジョーとジェリーがホテルにもどると、ジェリーは、ダーフィンに扮した自分にオズグッドが求婚したのでそれを受け入れたというのです。オズグッドの計略を暴いて、即時に離婚し多額の慰謝料をせしめるつもりであることも語ります。

Josephine, Sugar & Daphne

ホテルでは「イタリアオペラのフレンド」(Friends of Italian Opera) と題する会議が開かれます。実はこの集まりは、リトル・ボナパルト(Little Bonaparte)という大物の出席による全米の犯罪組織の集会です。その会場で、スパッツとその一味は、長い間探し続けていたジョーとジェリーを発見します。恐れた2人はバンドを辞め、ホテルから去ろうとします。ジョーは、シュガーに打ち明け、自分は父親の選んだ女性と結婚するためにベネズエラ(Venezuela) に行かなければならないと告げます。

ジョーとジェリーは犯罪組織の晩餐会でテーブルの下に隠れスパッツから逃れます。リトル・ボナパルトはスパッツとその一味を晩餐会で殺します。ジョーとジェリーはその場の目撃者となりホテルから逃れます。ジョセフィーンに変装したジョーは、ステージ上で失恋の悲しみを歌うシュガーを見上げます。そしてステージにのぼり、シュガーにキスをします。シュガーはようやくジョーがジョセフィーンであり、ジュニアであることを知ります。

ジェリーはオズグッドに彼のヨットでジョセフィーンとダーフィンをつれ出すようにと説得します。シュガーは、演奏しているステージを飛降りて、今しもジェリー、ジョー、オズグッドを乗せて出帆するオズグッドのヨットに飛び乗るのです。 ジョーはシュガーを欺いていたこと、彼女の意に添えなかったことを謝ります。シュガーもジョーと別れると伝えます。一方、ジェリーは、ダーフィンとオズグッドが結婚できない理由が喫煙と不妊症のためであるといいます。オズグッドはジョーとジェリーを解雇します。そして、自分はダーフィンと結婚するつもりだと主張します。憤慨したジェリーはかつらをとり、自分は男であると宣言します

懐かしのキネマ その81 【捜索者】

原題は【The Searchers】。南北戦争で南軍(Confederacy)に従軍したイーサン・エドワーズ(Ethan Edwards)は終戦後、テキサス(Texas) で牧場を営む弟アーロン・エドワーズ(Aron Edwards)の許に戻ってきます。出迎えたのはアーロンやその妻マーサ(Martha)、18歳の娘ルシイ(Lucy)、14歳になる息子ベン(Ben) 、9歳の娘デビー(Debbie) です。他にチェロキー族(Cherokee)との混血で、一家がコマンチ族(Comanches)に皆殺しにされたため引取られた若者マーティン・ポウレイ(Martin Pawley)にも会います。

翌日、牧師も兼ねるテキサス警備隊長(Texas Rangers) サム・クレイトン大尉(Captain Sam Clayton) の一行がやって来きます。隣人の牧場主ジョーゲンセン(Lars Jorgensen)の牛がインディアンに盗まれたので追跡するためです。イーサンとマーティンは隊に加わります。出発した捜索隊は途中、白人男子を家から誘い出すためのコマンチ族の仕業と知り、二隊に別れて捜索します。その間、エドワーズ(Edwards) 一家は皆殺しされ、ルシイとデビーは誘拐されます。犯行はコマンチ酋長スカー(Scar) と部下の仕業です。捜索隊はコマンチ族を追跡しますが劣勢のため退却します。復讐の念に燃えるイーサン、マーティンそしてルシイと愛し合っていた20歳になるブラッド・ジョーゲンセン(Brad Jorgensen) の3人だけ追跡を続けることになります。

数ヵ月後、3人はコマンチ族に追いつき、イーサンはルシイの死体を発見し埋葬します。インディアン宿営地近くでそれを知ったブラッドは狂気のようにコマンチ族目掛けて馬を飛ばし、非業の最期を遂げます。イーサンの敵慨心は更に硬くなります。やがて捜索2年目も過ぎイーサンは、デビーと血縁もないマーティンに平和な生活へ戻れとすすめるのですが、彼はきき入れません。その頃、イーサンは交易所の経営者から、報酬と引換えにデビーの居所を教えてもらいます。イーサンとマーティンは、誘拐されているデビーは酋長スカーと北方の保留地に向ったと聞いて直ちに出発します。やがてコマンチ族の交易所に立寄った時、マーティンはコマンチ娘ルック(Look)に惚れ込まれてしまい、珍妙な夫婦ができるのです。イーサンは酋長スカーらの居所を聞き出します。姿を消したルックは軍隊に襲撃された集落で死体となって発見されます。

アメリカ西南部を踏破した二人は、ニュー・メキシコ地帯(New Mexico) でメキシコ人エミリオ(Emilio)の案内から遂に目指すスカーの許に着辿り着きます。白人を憎悪するスカーです。その天幕には一人前の娘に成長したデビーの姿があります。ですが彼女は二人に気がつきません。怖気づいたエミリオは、スカーは全部知っているのだと言い立去ります。二人が去りあぐんでいる処に駆けよったデビーは「私は今ではコマンチです。帰って下さい」と言います。拳銃を手にしたイーサンはコマンチの狙撃に傷つき、マーティンの助けで辛うじて牧場へ戻ります。

折しも牧場では、警備隊員チャーリイとローリイの結婚式が行われようとしています。怒ったマーティンは花婿と拳銃で応酬し、結婚式はおじゃんとなります。やがてクレイトン指揮の警備隊はスカーのキャンプを急襲し、単身潜入したマーティンはデビーを救いスカーを射殺します。長年コマンチの許で暮したため、白人に敵意を持つようになったデビーをイーサンは殺そうと決意します。デビーを追いつめて銃口を向けますが、無邪気な表情に射つのを止め、馬上に抱き上げてブラッドの牧場に帰り着きます。愛するマーティンを迎えるローリイ。ジョーゲンセン夫人の胸にすがるデビー。6年間の使命を果したイーサンは満足気に一人去って行くのです。

懐かしのキネマ その80 【アパートの鍵貸します】

ビリー・ワイルダー(Billy Wilder)監督・脚本による都会派コメディの代表作が【The Apartment】です。主演のジャック・レモン(Jack Lemmon)は、アメリカ映画界最高の喜劇俳優といわれています。共演したのは、シャーリー・マクレーン(Shirley MacLaine)です。

1959年12月、あるニューヨークの大きな保険会社の19階の大部屋でC.C.バクスター(Bud” Baxter)、通称バドは勤めています。勤続3年と10ヶ月、礼儀正しく、数字に強く、だが、押しには弱い彼の週給は94ドル70セントでした。家賃月額85ドルの独身向けアパートに住む彼には一つの秘密がありました。それは、不倫の密会をする情事の場所として自分の部屋を会社の上司4人に又貸ししていたのです。バドは、出世の足掛かりを求めて部屋を貸し、そのため毎夜遅く帰る生活をしています。ある日、シェルドレイク(Sheldrake)人事部長に呼び出され、彼にも部屋を貸すことになります。課長補佐に昇進したバドは会社のエレベーター係のフラン(Fran Kubelik)をデートに誘うのですが、実は彼女はシェルドレイクの愛人でした。、バドはフランとのデートの約束をすっぽかしてしまいます。

会社でのクリスマス・イブのパーティで、フランはシェルドレイクの秘書・オルセン(Miss Olsen)から彼の女性遍歴を聞いて落ち込みます。また、バドはふとしたことからフランがシェルドレイクの愛人であることに気付き、ショックを受けます。シェルドレイクに部屋を貸したバドはバーで閉店まで時間をつぶすのです。シェルドレイクと別れ話になったフランは、彼が帰ったあと睡眠薬自殺を図ります。帰宅したバドは倒れているフランを見つけると、隣の部屋のドレイファス医師(Dr. Dreyfuss) を呼んで介抱します。翌日、フランの看病のため、会社を休んだバドですが、フランを迎えに来た義兄のカール(Karl) にバドがフランの自殺未遂の原因だと誤解されて殴られる始末です。

Bud and Fran

翌日、出社したバドは、シェルドレイクにフランを引き取ると持ち掛けようとします。シェルドレイクは解雇したオルセンに女性関係をばらされて離婚することになったと打ち明け、バドを部長補佐に昇進させるのです。大晦日、スポーツクラブに泊まっていたシェルドレイクはフランと過ごすため、バドにアパートの鍵を要求しますが、バドは要求をはねつけて会社を退職し、アパートから引っ越す準備を始めます。

レストランでの新年パーティでフランは、シェルドレイクからバドが会社を辞めたと聞き、彼の気持ちにようやく気付くと、彼のアパートに急ぎます。一人でシャンパンを開けていたバドのもとにフランがやってきます。そこで、バドはフランに愛を告白するのです。フランはそれに答えず、バドにトランプを配り、カードゲームに誘うという結末です。

懐かしのキネマ その79 【北北西に進路を取れ】

原題は【North by Northwest】という1959年に製作されたスパイスリラー作品です。世界的名監督のアルフレッド・ヒッチコック(Alfred Hitchcock)が監督しています。

1958年、ニューヨーク市のホテルのバーにいる2人の凶悪犯が、探しているジョージ・カプラン(George Kaplan)をポケットベルで呼ばれるのを聞きます。そこに居合わせた広告会社の重役ロジャー・ソーンヒル(Roger Thornhill)は、カプランと間違えられ誘拐されて、ロングアイランド(Longisland)のタウンゼント(Lester Townsend)という不動産屋の邸宅に連れて行かれ、スパイのフィリップ・ヴァンダム(Phillip Vandamm)に尋問されます。ヴァンダムはソーンヒルの抗議を無視し、さらに酔っぱらいの運転事故に見せかけて殺そうとします。ソーンヒルは、母親と警察に事情を話しますが、納得させることができません。警察は彼をタウンゼントの家に連れ戻し、そこにいた女性は彼が彼女のディナーパーティーで酔って現れたと言います。

North by Northwest

ソーンヒルは釈放され、拉致されたホテルに戻ってキャプランの正体を確かめようとします。しかしホテルの客室にカプランが宿泊している形跡はあっても、カプラン当人を見た者は誰もいません。そのうち邸宅にいた手下たちが追ってきたことを知ってソーンヒルはホテルから逃走し、タウンゼントが国連で演説する予定と聞いたことを思い出します。そして今度はタウンゼントを追って国連本部へ向かいます。ところが国連のロビーで会ったタウンゼントは、邸宅にいた男とは別の人物です。2人が噛み合わない会話をしていると、そのタウンゼントの背中に手下のひとりが投げたナイフが突き刺さります。ソーンヒルは、殺人容疑者として大きく報道されてしまうのです。

架空の人物とも知らず、なおもカプランを追い求めるソーンヒルは、シカゴに向かう特急寝台列車「20世紀特急」(20th Century Limited to Chicago)に乗ります。その車内でイヴ・ケンドール(Eve Kendall)という女性と親しくなります。彼女はソーンヒルがお尋ね者であることを承知していて、彼を自室に招き入れてかくまうのです。ところが同じ列車にヴァンダム一味も乗っていて、実はイヴは彼らと通じていたのです。シカゴに着くと、イヴはカプランと連絡をとったと言って、ソーンヒルを郊外の広大な平原に向かわせます。しかし、その平原でいつまで待ってもカプランは現れず、そのかわり農薬を散布していたはずの軽飛行機が襲いかかってきます。平原を縦横に逃げるソーンヒルを追い回すうち、軽飛行機は通りかかったタンクローリーに衝突して炎上してしまいます。

Mt. Rushmore

ともかく、この映画は、スパイスリラーですから、いろいろとハラハラする場面が満載です。たとえば、ラシュモア山(Mount Rushmore)の頂上への逃走劇です。指先で山にぶら下がるイヴをソーンヒルは手を伸ばして彼女を引き上げます。ソーンヒルとケンドールが山を下るとき、彼らはパークレンジャーによって打たれる凶悪犯を眺めます。その後の経緯は見てのお楽しみですが、ソーンヒルは新しくソーンヒル夫人となったイヴを電車の上段に引き込みます。その後、列車はトンネルに入るという結末です。

懐かしのキネマ その77 【エビータ】

ミュージカル『エビータ』(Evita)をもとにした1996年のアメリカ映画です。アルゼンチン(Argentine)のファーストレディ(First Lady)であったエバ・ペロン(María Eva de Peron)を描いています。フアン・ペロン(Juan Domingo Peron)大統領と結婚し、後に政治にも介入するようになります。アルゼンチン国内では人気が高く、民衆は親しみをこめてエビータ(Evita)と呼んでいました。Evitaを演じたのはマドンナ(Madonna)です。

Eva Peron

ペロンは軍人で、1943年6月のクーデター以降、労働組合の支持を得て徐々に勢力を増していきます。1944年1月のサンフアン大地震(San Juan Earthquake)の救済コンサートでエバとペロンは出会い、愛人として、かつ共に権力を目指すようになります。エバは上流階級の社交界にも顔を出すようになっていきます。しかし、その出自から軍部や上流階級どちらからもひんしゅくを買うようになります。

1945年のクーデター (Coup detat) によりペロンは一時拘束されますが、エバはラジオ番組や演説を通じて働きかけ、ペロニスト(Peronists) の民衆もペロンの釈放を求めて続々と首都ブエノスアイレス(Buenos Aires) に集結します。解放されたペロンはエバと正式に結婚。「労働者の味方」を演出してさらに人気を上げ、エバはついに26歳にしてアルゼンチンのファーストレディとなります。ペロンが大統領に就任した際、大統領官邸カサ・ロサダ (La Casa Rosada)のバルコニーで、エバは「アルゼンチンよ泣かないで」Don’t cry for me Argentina)を歌います。

“Don’t Cry for Me Argentina”

エバは財団基金の名のもと集めた寄付で、ディオール ((Christian Dior) の服や毛皮、宝石などで華やかに着飾って、「レインボー・ ツアー」(Rainbow Tour)と銘打ってヨーロッパ各国を歴訪します。さらに婦人参政権運動をすすめ、貧しい人々を助けるエヴァ・ペロン財団(Eva & Peron Foundation) を設立するなど、精力的に活動を続けます。しかし、特権階級が独占していた富を吸い上げ、奔放な施策で貧困層の不満のガス抜きをしますが、問題の根本的な解決には至らず、アルゼンチンの混乱は続きます。鉄の意志のような振る舞いで、夢を実現してきたエバも、病に襲われ33歳で亡くなります。葬儀は国民葬で執り行われました。人生を激しく生きた稀有な女性といわれています。

懐かしのキネマ その76 【ブレイブハート】

原題は【Braveheart】というアメリカ映画です。スコットランド(Scotland) の独立のために戦った実在の人物ウィリアム・ウォレス(William Wallace) の生涯を描いた歴史映画です。スコットランドは現在はグレートブリテン及び北アイルランド連合王国(United Kingdom of Great Britain and Northern Ireland:UK)に属しますが、1707年まではスコットランド王国として存続しました。UKの通称はイギリスとか英国と呼ばれます。

West Highland

13世紀末、イングランド王(England)エドワード1世(EdwardI) の過酷なスコットランド支配に対して、ウィリアム・ウォレスは、スコットランド民衆の国民感情を高めて抵抗運動を行います。家族を殺害されるも、難を逃れたウォレスは、成人して彼は故郷に戻り、そこで幼なじみのミューロン(Murron)と恋に落ち、結婚します。しかし彼女はイングランド兵の手によって殺害されます。ウォレスは復讐を決意し、圧政に苦しむスコットランドの民衆の支持によって、抵抗運動は高まっていきます。

William Wallace

1297年のスターリング・ブリッジの戦い(Battle of Stirling Bridge)でウォレスらは、イングランド軍に勝利をおさめます。ウォレス率いる反乱軍は連勝を重ね、逆にイングランド領のヨーク(York) を占領します。エドワード1世は講和しようと息子の妻イザベル( Isabelle) をウォレスの元に送ります。彼女はウォレスに魅了され、イングランドへの侵攻を止めるように進言します。しかし、ウォレスは独立の好機ととらえ、スコットランドの王位継承者と目されるロバート・ザ・ブルース(Robert the Bruce) をはじめとする貴族層にも蜂起を促します。ですが、権益を保持したい貴族たちは土壇場でウォレスを裏切り、1298年のフォルカークの戦い(Battle of Falkirk) でイングランド軍に大敗を喫します

その後も辛くも生き延びたウォレスは行方を眩まし、各地でゲリラ戦を展開し、エドワードの支配への抵抗運動を継続しますが、1305年にイングランド軍に捕らえられ、大逆罪で有罪となります。ロンドンで行われた公開処刑では慈悲を乞うことを拒否し、【祖国の自由を】と叫びながらウォレスは息絶えます。ブルースに率いられたスコットランドの勇士たちは果敢に戦い、バノックバーンでの戦い(Battle of Bannockburn)でイングランド軍を破り自由を勝ちとるのです。

懐かしのキネマ その75 【レフト・ビハインド】

原題は「Left Behind」。新訳聖書「ペテロの手紙」(First Epistle of Peter)に「万物の終わりが近づきました。ですから、祈りのために心を整え身を慎みなさい」という聖句があります。「Left Behind」とは「取り残される者」という意味です。【レフト・ビハインド】という映画は、万物の終わりが近づいたという「終末」にまつわる預言が描かれた作品です。

映画は、何の前触れもなく、世界各国で数百万もの人々が消失するという異常事態が発生することで幕が上がります。各種通信網やエネルギー網などのシステムはダウンします。さらに消失を逃れた人々は不安に駆られて混乱し、一部は暴徒化してしまいます。

パイロットのレイフォード(Rayford Steele) が操縦するジャンボジェット機内でも同様の消失現象が起きます。副機長のクリス・スミス(Chris Smith)、客室乗務員のキミー(Kimmy)、そして搭乗していた子どもたち全員が、着ていた衣服を残したまま姿を消します。消失しなかった乗客たちはパニックになって、なぜこんな現象が起きたのかと騒ぎ立てます。

レイフォードは自分が知る情報はすべて乗客に伝えると何度も言います。彼は地上と無線や携帯電話で連絡を取ろうとしますが、つながりません。ようやく連絡がついたときには、世界中で消失現象が起き、そのためにパニックが起きていることを知らされます。その後すぐに、パイロットが消失したジェット機がレイフォードの飛行機の飛行経路に近づいてきます。レイフォードはかろうじて上空での正面衝突を避けますが、エンジンにダメージを受け、燃料の流失が始まります。レイフォードはニューヨークへ引き返す決断を下します。

地上では、レイフォードの娘、クローイ(Chloe Steele)が父親の救難要請を携帯電話で聞き、飛行機が墜落してしまったと思ってしまいます。その後、クローイは親交のあるブルース・バーンズ牧師(Rev Bruce Barnes)に会うために、ニュー・ホープ教会(New Hope Church) へと向かいます。バーンズ牧師は神が自らを信じる者を天国へ導き、残された者たちは終末の日を迎えることになると主張する牧師でした。バーンズ牧師は「自分が説教する内容を本気で信じていなかったために、自分は取り残されてしまった。」とクローイに告白します。

その頃、副機長と客室乗務員が残した所持品を調べていたレイフォードもバーンズ牧師と同じ結論に至ります。レイフォードは、客室乗務員のハティー (Hattie Durham) に妻アイリーン(Irene Steele)が熱心なキリスト教の信者になってしまったことを打ち明けます。レイフォードは、ハティーと情を交わしていたのです。その話を聞いたハティーは、レイフォードが結婚している事実すら知らなかったために激怒します。しかし、やがて落ち着きを取り戻したハティーは、無事着陸できるまで乗客をなだめて落ち着かせようと努力します。

クローイは自殺しようとします。そこに飛行機の乗り合わせていた記者のバック(Buck William)から電話がはいります。レイフォードは、クローイに、すべてのニューヨーク付近の空港は閉ざされ,道路も車で一杯であること、燃料が尽き始めていることを伝えます。クローイは捨てられているトラックを使い、建設中の道路の資材を取り除き、一時しのぎの滑走路にしようとします。コンパスのアプリを使い、着陸地を指示します。レイフォードはなんとか道路に着陸し、乗客を救うのです。辺り一面火の海が広がります。バックは「これはまさに世界の終わりだ、、」とつぶやくのですが、クローイは「これが世界の始まりなのだ、、」と答えるのです。