心理学のややこしさ その三十 自閉症とサイモン・コーエン

サイモン・コーエン(Simon Cohen)はロンドン生まれでロンドン大学精神医学研究所 (Institute of Psychiatry, Kings College)で臨床心理学者の資格を取得し、その後学位を取得します。ケンブリッジ(Cambridge)にある自閉症研究センター(Autism Research Centre:ARC) の所長をしています。

さて自閉症を簡単におさらいします。自閉症は脳の機能障害で、コミュニケーションや社会的技能の正常な発達に影響します。しばしば周囲の世界に対して他人には理解が困難な仕方で反応することもあります。他人に関心を示さないことにあります。

自閉症の大半は男性です。自閉症にはさまざまな研究で説明されてきました。その中でコーエンの「心の理論(Theory of Mind」という仮説があります。これは脳内での性差についての自身の観察をもとに「自閉症は男性脳の極端な形式」であると示唆しています。

2003年にコーエンは「女性脳」と「男性脳」の共感ーシステム理論を展開します。これは性差にかかわりなく、すべての人に特定の「脳のタイプ」を割り当てるもので、その基準は共感能力かシステム化能力かという点に求めるのです。

概して女性脳には共感能力が備わり、女性は他者に対してはいっそうの共感を示し、顔の表情や非言語的コミュニケーションにおいてより大きな感受性を発揮するといわれます。他方、男性脳はシステムの理解と構築に適していて、ものごとがどう機能するのか、その構造や組織はどうなっているのかに強い関心を示します。多くの場合、地図の読解といった解読技能を要する課題に強いことがいえます。

コーエンの実験では男女に歴然とした差があるというわけではなく、大半の人が両方の能力のバランスのとれた脳も持つといます。ただ、男性の約17%だけが共感的脳を持ち、女性の約17%だけがシステム的能力を持つというのです。