懐かしのキネマ その85 【スリ】

原題は「PICKOCKET」。「スリ」という意味です。1960年にフランスで作られた名画です。社会の中で行き場を見失った貧しく寡黙な一人の青年が、スリという行為に生きがいを求め、その所業にのめりこんでいく一方で、現実の営みから離脱し、人としての感情も希薄になっていく様を描いた作品です。フランス映画はアメリカ映画と違った風趣があります。是非観ていただきたい作品です。

Michel

貧しい大学生ミシェル(Michel)は、母から離れ安アパートで暮しています。ふとしたきっかけで、ロンシャン競馬場(Longshan Racecourse)で、女性のバッグから金をスリ取ります。自分にスリの才能があることを発見します。一度は刑事に捕まったものの、証拠不十分で釈放されますが、再び他人の財布を狙い出します。母にその金を届けた時、隣室の娘ジャンヌ(Jeanne)に会います。小才のきく真面目な友人ジャック(Jacques) に、ミシェルは仕事の世話を頼みます。

ミシェルは、仕事へ行く地下鉄でスリの犯行を目撃し惹き付けられます。練習ののち最初の犯行は成功します。時には失敗しますが、ジャックと喫茶店にいる時、かつて尋問されたペレグリ警部(Pelegri)に会います。彼はミシェルになぜか目をつけています。やがてその手口は、仲間を引き込んだ組織的なものになっていきます。本もののスリが彼をアパートの出口で待っています。見込まれた彼は種々の手口を教えられ銀行の前でスリをし、駅では三人で組んでかせいでいくのです。

ミシェルの母が亡くなります。葬儀にはジャンヌも参列しています。警部のペレグリがアパートを訪ね、盗んでいたお金を所持していたことを伝えます。彼はその金がミシェルが稼いだものと考えます。しかし、ミシェルを告訴しません。

カメラは「スリ」の行為について、その手の動きをクローズアップさせ、青年と仲間が連係プレーで繰広げる数々の華麗なる手口を流れるようとらえています。青年の淡々と抑揚のないモノローグを朗読し、若干の台詞のやり取りがあるだけです。その台詞も棒読みに近い語りかけですで、登場人物たちの動きも必要最小限にとどまっています。フランス映画の名作といえるのではないでしょうか。