心に残る一冊 その46 「ワルデンー森の生活」

 

 

ボストン(Boston)から車で北西20キロのところ。独立戦争の口火を切った古戦場の一つ、レキシントン・コンコード(Lexington-Concord)があります。舞台は1775年頃です。このあたりは広大な森が広がり、そのあちこちに湿地や池などが点在します。ニューイングランド(New England)と呼ばれます。1845年、ヘンリー・ソーロ(Henry D. Thoreau)は、教育手段として使われていた笞打ちに反対し教師を辞任し、ここにあるワルデン池 (Walden Pond)のそばに簡素な家を建て、森の中でひとり2年余りの自給自足の生活を始めます。ソーロはアメリカの随筆家です。

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1854年に出版されたソーロの「ワルデンー森の生活 (Walden, Life in the Woods)」は、ニューイングランドでの生活の記録です。自然のなかにその身を置いて、自然とともに生きることの意味を語っています。大事だと思われることは、ソーロにとって自然とはワルデン池と周りに広がる森という自然だけではないことです。自分自身が文明化され機械化されつつあるアメリカにあって、より自然体でいきることの意義を探すのです。自然体とは、生活に必要な最低限のものを自力で手に入れて生きることを意味します。ソーロは人間はそれができるのだと訴えます。

「素晴らしい絵を描き、彫像を刻むこと、こうした創造の能力は良いものです。けれど、人が生きて、描き、練り、暮らしを良くする芸術ほど、輝かしい芸術はないでしょう。日々の暮らしの質を高めることこそ最高の芸術ではありませんか。」

文明化した人の人生の目的が、未開の人のそれと比べ、格段の価値があるとはいえないとソーロはいいます。暮らしに必要な物と心地よさを追い求めることで十分だ、というのです。適量の豊かさで良いのではないか、、、このような暮らしをしていて、なぜ人頭税などを払う必要があるのか、とも訴え逮捕されたりします。

ソーロと同じ時期に執筆活動で活躍したアメリカを代表するといわれる文筆家で思想家が、エマソン(Ralph W. Emerson)です。彼もソーロと同じくハーヴァードを卒業し、一時牧師となります。教職を辞してからはコンコードに住むのです。「地としての世界の中に自分の理性に見えるとおりの意味を正直に読み取ろうという自己信頼の思想」を強調します。

Henry D. Thoreau