アメリカ共和党全国大会がミルウォーキーで

注目

現在、米共和党の全国大会がウィスコンシン州の最大都市であるミルウォーキーで開かれています。東部ペンシルベニア州で演説中に狙撃され負傷したD.トランプは予定通り大会に出席して、その存在意義を高めています。注目されていたのは、トランプが誰を副大統領候補として指名するかでした。そして7月15日の党大会初日に、オハイオ州選出の上院議員である39歳のJ.D.バンスを指名しました。

オハイオ州は、製造業などの衰退で「さびついた工業地帯(rust belt)」と呼ばれる地域で白人労働者層が多く、共和党も民主党も大統領選挙戦では、「オハイオは接戦州」として重要視しています。過去の大統領選挙でも両党とも中西部の「労働者と農家」に重点を置く選挙戦を展開してきました。オハイオ州は、産業分布や人種構成が全米平均に近く「アメリカの縮図」として知られ、歴史的には7人の大統領を産んだ州です。

共和党全国大会

オハイオ州は両党の支持率がきっ抗し、選挙の度に勝利者が変動(swing)するので、「スイングステート(Swing State)とも呼ばれています。トランプが2016年に、得票率の差わずか1ポイント未満で勝利した州です。1964年以降は、「オハイオ州で勝利した者が”必ず”大統領になる」というジンクスが出来上がったのです。トランプがオハイオ州選出の上院議員J.D.バンスを指名したのは、合点がいきます。

全国大会が開かれているウィスコンシン州は共和党の発祥の地といわれます。1854年3月に、同州リポンという小さな街のリトルホワイトスクールで、約30人が参加する最初のアメリカ共和党郡大会が開催されたのです。南北戦争の時代のウィスコンシン州は共和党を支持する州でした。ウィスコンシン州は「酪農の地」と呼ばれ、白人農家や酪農家が多く共和党の地盤でした。20世紀前半は上院院議員であったR.ラフォレットらが共和党を支配していましたが、後には民主党となる進歩党を復活させます。爾来、ウィスコンシンは共和党と民主党がしのぎを削る州の一つとなっています。

ラフォレットの貢献は、開かれた政府、最低保障賃金、党派に拠らない選挙、開かれた予備選挙のしくみ、上院議員の直接選挙、女性参政権および進歩的税制度などをウィスコンシンで広め、その思想は「Wisconsin Ideas」と呼ばれ、ウィスコンシン大学の発展にも影響を及ぼします。そして、1950年代には州選出のJ.マッカーシー上院議員による悪名高き「マッカーシズム」(McCarthyism)と呼ばれた反共産主義運動が起こります。

近年の大統領選挙におけるウィスコンシン州は接戦が続いています。2008年の場合はB.オバマが56%の支持を得て勝利しました。2012年もオバマが52%を獲得し、勝利を収めます。2016年には一転して、トランプ、H.クリントンともにウィスコンシンで勝利することが大統領選の勝利を意味するほどの接戦となります。選挙前の世論調査では一貫して民主党有利という下馬評でしたが、得票数で上回るも獲得選挙人数で敗北しトランプが大統領となります。しかし、2020年の大統領選挙では、バイデンが49.57%、トランプが48.95%という得票率で両者の差は1%前後の大接戦となりました。

ウィスコンシン州もオハイオ州も大統領選挙ではいつも全米の耳目を集める州です。その理由は以上のような地政学的、及び歴史的な経緯によって、政治に高い関心を持つ州だからです。

(投稿日時 2024年7月16日)  成田 滋

ナンバープレートを通してのアメリカの州  その四十六 ペンシルベニア州–Amishと子どもの教育

本稿はアーミッシュの子ども達の教育についてです。子どもはコミュニティの中にある一部屋の教室で8年間学びます。これはワンルーム・スクール・ハウス(One room school house)と呼ばれています。二部屋の教室もあります。学ぶのは聖書の読み書き、英語、ドイツ語、算数、歌唱などに限られています。教師は未婚の女性がなります。教員免許は持っていません。学びで大切なことは、両親らから教えられる農作業、家畜の世話などの実地体験です。子どもは大学に入ることはありません。高等教育は、アーミッシュの人々の考え方や生き方を乱す世俗のものであると考えるからです。

Amish School

教育年限が8年間であることについて、ウィスコンシン州に住んでいたジョナス・ヨーダ(Jonas Yoder)ら3名のアーミッシュがマディソンの近くにあるニューグレラス(New Glarus)高等学校への子どもの就学を拒否してウィスコンシン州教育委員会を相手に裁判を起こした有名な事例があります。これはWisconsin v. Jonas Yoder裁判と呼ばれます。初審はグリーン・カウンティ(Green County)裁判所で開かれ、原告の敗訴となり5ドルの罰金が科せられます。二審の州最高裁では、一転してヨーダー側の勝訴となります。それを不服としてウィスコンシン州教育委員会は、連邦最高裁判所に上告します。保護者には子どもに高等教育を受けさせる義務があるという主張です。

Amish Family

それに対して、ヨーダら保護者が、高等学校における就学義務について「アーミッシュの子ども達を信仰に反する態度・目的や価値といった点で世俗の影響にさらし、アーミッシュの子どもの宗教的発達と、アーミッシュの信仰による共同体での生き方の統合を、発達の決定的段階である青年期に本質的に阻害され、親および子どもの両方にとって高等学校教育がアーミッシュの基本的な教義と慣習に反する」と訴えたのです。アメリカでは、小学校が5年、中学校が3年、高校が4年の12年間が義務教育で無償となっています。ただし、アーミッシュは、子ども達の読み書きや算術などの基本的な技術を学ぶために公立学校に通うことに反対したのでありませんでした。

Amish girls on computers

アーミッシュ共同体外での高等学校段階での就学義務によって、子ども達を「人間の成長にとって極めて重要な意味をもつ青年期に、物理的、情緒的にからアーミッシュの共同体から連れ去ってしまう」という理由です。ウィスコンシン州はアーミッシュによる義務教育法の適用免除要求を拒否しますが、連邦最高裁判所は、1972年5月15日に州がアーミッシュの家族と子どもの宗教的権利を侵害したと判決を下します。最高裁のバーガー(Warren Burger)首席判事は、法廷意見においてアーミッシュはその共同体における生活のために、十分に適切な教育を子ども達に与えていると主張します。さらに、学校では人間に必要なものの半分しか得ることができない、アーミッシュは学校教育に全て委ねるのではなく、家庭や農場での実践を通して、良き市民を育ててきた長い実績があることを評価されたのです。この判事は共同体では低い犯罪率や社会保障給付の辞退を論拠として、アーミッシュは稀なほど子どもの教育に成功しているとも述べるのです。

この最高裁判決において、少数の反対意見をダグラスという判事(William Douglas)が述べています。憲法の修正第1条の言論や表現、結社、宗教の自由、さらに修正第14条にある市民の広範な権利は保障されるべきであること、しかし、コミュニティにおける8年の教育で十分であるという主張は、果たして子どもの幸福を保障するものかは疑問であるとします。保護者の訴えは子どもの訴えではないという主張です。子どもの意見を聞くべきであるというのです。