「総合的な校務円滑システムの構築による特別支援教育の情報化」という課題の主たる作業は、そのツールを設計し開発することだった。そのために、特にヴァージニア州(Virginia)やマサチューセッツ州(Massachusetts)、英国のバーミンガム市(Birmingham)に調査団を派遣し、市販の個別の指導計画作りシステムや学校区が独自に作成しているシステムを調べた。調査方法は、インタビュが中心で実際に運用しているシステムを観察する機会も得た。ヴァージニア州のフェアファックス学校区(Fairfax County Public Schools)ではシステム利用の教師研修にも参加しハンズオンを経験できた。
アメリカの学校は早くから校内に端末が敷かれ、それがサーバーに接続されて校務情報が共有化されている。大きな学校区は自分たちのシステムを管理し、小さな学校区は市販のシステムやサーバーを使い、学校区にそったいわゆるローカライズされたシステムを利用しているこが判明した。そこで本研究でのシステム名を「e-iep」と名付けた。
個別の指導計画(IEP)は、多くの情報を基にして関係者による共同作業である。時間のかかる作業である。おいそれと簡単に作られるものとは違う。通常、IEPは次のような手順を経て作られる。
1) 子どもの成育に関する資料、保護者を含めた関係者からの情報、診断結果などを収集する。
2) その時の発達状態を行動観察、面接、検査などで把握する。
3) 保護者の新しい期待や願いを聴取する。この願いは、行動のチェックリストなどで現れた生徒の落ち込んでいる領域や改善すべき行動などである。保護者とじっくり話し合う。ここでIEPが作成されることが決められる。
4) ケースカンファレンス(会議)などでの協議を踏まえて、指定された者が中心になって計画案を作る。長期や短期目標を明確に記述する。指導状の具体的な手だても記述する。さらに指導に関わる者を特定する。
5) それを保護者に説明し同意をとる。
6) コーディネーターなどのケース責任者や管理職から計画案の同意を受ける。
7) 計画に基づいて指導を展開し、授業毎、週毎、月毎、行事毎の特筆すべきことを記録し評価に生かす。
8) 指導の成果を計画の目標に照らしながら定期的に評価する。それを保護者に説明する。
9) 評価に基づき申し送り事項を明確にし次の指導に活かす。
IEPというものは、繰り返すが短時間で担任が一人で作れるものではない。複数の教師や特別支援教育コーディネーター、福祉関係者や保護者と緊密な連絡を取り合いながら作り上げるものだ。e-iepは、以上のような作業をする機能を備え、デジタル化できるようになっている。実態把握から保護者や教師の願い、達成可能な目標づくりやなど必要な項目が全て用意されているので論理的で解りやすい指導計画を作成できる。それだけに、システム上のIEP作成は、ケースカンファレンスと同様に操作手順に熟知していない難しい。