ウィスコンシンで会った人々 その43 「定石」と「手筋」

囲碁は長い歴史がある。それゆえ、研究されてきて最善とされる形となる決まった石の打ち方がある。それが「定石」である。双方が最善を踏んだ手順であるから、部分的には双方が互角になるのである。定石に至る応酬は、相互が定石を知っていて始めて成立する。どちらかが大得するとか大損をするということはないはずである。

しかし、碁盤の他の部分の配石次第で、定石どおりに打っても悪い結果になることがある。周りの状況を見ながら定石どおりに打つのがよいかどうかを判断するのが難しい。囲碁の格言にある。「定石を覚えて二子弱くなり」である。これは、初中級者が定石の手順を丸暗記していたために起こった悪い結果のことを揶揄したものだ。囲碁は部分的と全体の関連のなかで進められる。双方の戦術がいかなるものかによって、部分的な定石で納めるか、あるいは定石を少し離れて少しくらい損をしても、全体的には得をすることを選ぶこともある。

定石の一手一手はそれ自体が「手筋」の応酬である。「手筋」であるが、平凡な発想ではなく、やや意外性を含んだ効果的な手とされる。この種の手を「筋」(すじ)と呼ぶこともある。「手筋」は勉強していないと、対局中はそれが浮かばないものである。丸暗記をしてそれを時に試してみることだ。

「手筋」にはいろいろある。自分の石が生きる手、攻め合いに勝つ手、形を整える手、連絡を図る手、相手の地を削減する手、先手をとる手などある。「手筋」は定石に似たものであるがので、良い形や結果を生むとされる。また「手筋」は業であり技であるので、これを使うことによって形勢が有利になることが多い。

一手一手の意味を考えながら「定石」と「手筋」のレパートリーを増やすことが囲碁上達の基本とされる。囲碁の稽古に早道はない。愚直に稽古を積み重ねることを心掛けたい。

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ウィスコンシンで会った人々 その25 囲碁の基本 その一 特徴

ウィスコンシンと囲碁。タイトルと内容がちぐはぐではある。留学時代にウィスコンシン大学の学生会館–Memorial Unionで囲碁を楽しんでいる中国人や韓国人の姿をよく見かけたことを数日前に紹介した。当時こちらは貧乏院生。ゆっくり立ち止まって観戦するわけにはいかなかった。その頃、囲碁を打っていればもっと強くなったかもしれないと納得はしている。

囲碁には他のゲームと同様に大事な戦略がある。この知的な作業が一番大事であり、最も難しいことである。囲碁を打つ上でのいくつかの特徴を取り上げる。布石、石の形、定石、石の働き、厚みなどである。

【布石】
序盤での石の配置のことである。中盤や後半の戦いのためにあらかじめ備えることである。基本的に序盤は隅から打ち進めるのが効率がよいといわれる。これはある一定の地を得るために必要な石数が、中央より辺、辺より隅の方が少なくて済むためである。隅は二辺を囲めば地となり、その分効率がよいとされる。近年のプロの対局では、第一手のほぼ全てが隅から始まっている。第一手を中央に打った対局も存在するが、多くの場合、打ち手である棋手の趣向といわれる。北海道旭川出身の山下敬吾九段がよく打った。

【石の形】
囲碁のルールは非常に単純であるが、そこから生まれるる効率の良い石の配置とか必然的な着手の仕方、つまり石の形を理解することが上達につながるといわれる。石の形を習得することで棋力を積み重ねることができる。効率のよい形を「好形」、悪い形を「愚形」とか「凝り形」などと呼ぶ。「空き三角は愚形」、「二目の頭見ずハネよ」など、格言になっている石の形は多く存在する。

【定石】
布石の段階で双方が最善手を打つことでできる石の配置をいう。両者が最善を尽くしている状況では、部分的には互角になる石の姿、あるいは応酬のことである。だが定石はあくまでも「部分的」に互角ということであり、他の部分の配石次第では、定石どおりに打っても悪い結果になることがある。初中級者が定石の手順を丸暗記して悪い結果になることを「定石を覚えて二子弱くなり」などと揶揄される。ただ単に定石を覚えただけではいけない。ここが囲碁の難しいところだ。

【石の働き】
囲碁は互いに着手する回数は同じである。その過程でいかに効率よく局面を進め、最終的により多くの地を獲得するかの知的ゲームである。石を効率よく打つと地を得やすくなる。この石の効率ことを「石の働き」と言い、効率が良い状態を「石の働きが良い」、効率が悪い状態を「石の働きが悪い」と言う。前述した愚形や凝り形と呼ばれる展開は、総じて石の効率も石の働きも悪い。石の働きは将来の地の大きさに響いてくる。

強い棋手が盤上を見ると、愚形や凝り形になったほうは負け、と即座に判断するという。石の効率が悪いと勝つことは難しいようだ。囲碁は石の働きや効率を競い合うゲームといえる。

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