心に残る一冊 その8 「警官と賛美歌」

刑務所生活をしたことのあるオー・ヘンリーの短編小説には警官がしばしば登場します。ヘンリーは警官に対して特別な感情を持っているようです。今回は「警官と賛美歌」 (The cop and the anthem)という小説を紹介します。

主人公はソピー(Soapy)という野外生活者です。冬が近づくとソピーはブラックウエルアイランド刑務所(Blackwell Island Prison)で三ヶ月をおくることを常としています。温かい食事と寝床が用意され警官からどやされることのない快適な住み家なのです。舞台はニューヨークのマディソン・スクエア(Madison Square)のあたりです。

また冬が間近なのでソピーは刑務所生活を待望して、立派なレストランで最上の無銭飲食をしようと考えます。だがウエイターはソピーの穴の空いた靴や破れた服をみて追い返すのです。仕方なく六番街にやってくるとソピーは石を拾って窓ガラスに投げつけます。警官が飛んでくるのですが、二人の男が逃げていきます。警察はそれを追いかけるのです。またもやソピーは刑務所行きが失敗します。

今度は安っぽい食堂に入りたらふく食べて、店主に「金はない」といいます。てっきり警官に連行されるのを期待するソピーですが、二人の店員につかまれてほっぽり出されます。警官はにやにやして眺めています。次ぎに一人の若い女性がウインドウの前に立って中の品をのぞいているのを見つけます。側には背の高い警官が立っています。彼女は話しかけられるのを嫌がって警官を呼ぶだろうとソピーは考えます。
ソピー 「今晩は、Bedelia!, 一緒にあそびにいかないか?」
女 「いいわよ、Mike!」
女 「何か飲ませてくれる?あなたが話かけてくれるのを待っていたのよ。だって警官がこっちを向いているでしょう。」
そういうと女性はソピーの腕に手をまわします。次の角に来ると女は腕をといて立ち去ります。

とぼとぼと古い劇場街にやってきます。ソピーは劇場の前で酔っぱらったふりをして大声でわめき踊り出します。警官がやってきて、周りの人々にいいます。
警官 「あれは学生なんだ、怪我はさせないからやらせておけ、、」

なんど芝居をしても警官に逮捕されないソピーは、とある古い教会堂の前にやってきます。ステンドグラスから柔らかな光が溢れています。そこから賛美歌が響いてきます。ソピーが知っている賛美歌なのです。その音をききながらソピーは、昔の自分、仕事、友達、家族のことを想い浮かべるのです。自分の生き方をしみじみと振り返ります。そこに警官がやってきます。
警官 「なにをしているのか?」
ソピー 「いや、なにも、、、」
警官 「お前が考えていることは、、」

ソピーは警官と言い合いを始めるのです。
警官 「ニューヨークの警官と言い合いするのは無駄なんだ。ついてきなさい。」

翌朝、治安判事はソピーに三ヶ月のブラックウエルアイランド刑務所行きを命じるのです。