心に残る一冊 その3 「夜と霧」 

この著作は、私はこれまでいろいろな機会で紹介してきました。それほど強烈な印象を受けた一冊です。

第二次世界大戦中、何百万人というユダヤ人がナチスによって強制収容所に送られました。その一人が精神病理学者のヴィクトール・フランクル(Viktor Frankl)です。収容所体験をもとに書かれたのが「夜と霧」です。原名は「強制収容所における一心理学者の体験」となっています。この本は、日本語を含め17カ国語に翻訳され多くの人々に読み継がれています。

私がこの本を読んだのは、フランクルが編み出した「ロゴテラピー(Logo Therapy)」という心理療法に関心をもったからです。彼は、収容所のなかでユダヤ人が生と死の狭間のなかで、生きていくことの意味を考えます。希望を持ち続けた者が生き延びることができたのを観察します。いうなれば、人間は様々な条件や状況の中で自らの意志で態度を決める自由を持っていると主張します。誰かが運命を決めるという決定論を否定するのです。人間は生きる意味を強く求める存在であることも強調します。意味への意志を持つ存在だ、というのです。そして、それぞれの人間の人生には独自の意味や価値が存在しているということです。

フランクルは次のように訴えます。

「人間の実存は本来決して現実に無意味になりえないことが明らかになる。すなわち、人間の生命はその意味を「極限まで」保持しているのである。従って人間が息をしている限り、また彼が意識をもっている限り、人間は価値に対して、少なくとも態度価値にたいして、責任を担っているのである。人間は意識存在をもっている限り、責任性存在をもっているのである。価値を実現化するという彼の義務は、人間をその存在の最後の瞬間まで離さないのである。」

“Say Yes to Life” それでも人生に意味がある、というのです。