ウィスコンシンで会った人々 その95 艶噺 「錦の袈裟」

与太郎噺のひとつに「錦の袈裟」がある。通称、与太は、少々虚け者ということになっている。町内の若者たちが吉原へ遊びに行く相談をした。隣町の若い者のいでたちが凄いということが伝わったきた。それに負けてはならじと、なんとか粋な格好をして出かけようということになった。

そこで「質屋に何枚か質流れの錦の布があり、使っていいと番頭に言われているので、それを褌にして吉原へ乗り込み裸で総踊りをしよう」と決める。ところが、布が一枚足りない。仕方なく、与太には自分で工面させることにする。

与太は家へ帰ると、しっかり女房がいう。「行ってもいいが、うちに錦はないよ。じゃ檀那寺の住職にお願いしておいで。『褌にする』とは言えないから『親類の娘に狐がついて困っております。和尚さんの錦の袈裟をかけると狐が落ちる、と聞いておりますので、お貸し願います』と言って借りてきなさい」

知恵を授けられた与太、寺へやってきてなんとか口上を言って、一番いいのを借りることができる。和尚からは「明日、法事があって掛ける袈裟じゃによって、朝早く返してもらいたい」と念を押される。帰宅して女房に袈裟を褌にして締めてもらうと、前に輪や房がぶら下がり、何とも珍妙な格好になる。

いよいよ、みんなで吉原に繰り込んで、錦の褌一本の総踊りとなる。女達に与太だけが大いにもてる。「普段、殿様は羽目をはずことができないのよ。だからああして踊っているの、」などと女の間で与太はえらい評判となる。

女達 「あの方はボーッとしているようだが、一座の殿様だよ。高貴の方の証拠は輪と房。小用を足すのに輪に引っ掛けて、そして、房で滴を払うのよ」
女達 「他の人は家来ね。じゃ、殿様だけ大事にしましょうね」

翌朝、与太がなかなか起きてこないので連中が起こしに行くと、まだ与太は寝ている。

男達 「与太、、そろそろ起きな、、帰るぞ、、」
与太 「みんなが呼びにきたから帰るよ、、」
女 「いいえ、主は今朝(袈裟)は返しません」
与太 「今朝は返さない……? ああ、お寺をしくじる」

url P1000540

ウィスコンシンで会った人々 その48 与太郎噺

落語にはいろいろな人物が登場する。「八っぁん、熊さん、」などと並ぶ代表的なのが与太郎である。性格は八五郎に似ている。

例外なくぼんやりした人物として描かれる。性格は呑気で楽天的。何をやっても失敗ばかりするため、心配した周囲の人間から助言をされることが多い。こうしたキャラクターから、与太郎の登場する噺は爆笑ものが多く、与太郎噺と分類される場合もある。さらに「愚か者」の代名詞となっているが、決して憎めない存在だ。長屋の者は与太郎をかばうことも決して忘れない。

「孝行糖」という演目では与太郎は親孝行という筋書きになっている。孝行によって殿様から褒美の青ざし五貫文を頂戴する。五貫文とは一両一分で十万円くらいと云われる。長屋の者は、五貫文を元手に与太郎にお菓子の「孝行糖売りの行商を教える。自立させようというのだ。そして与太郎に客寄せの台詞教える。「チャンチキチ スケテンテン♪ 孝行糖、孝行糖〜」。

「錦の袈裟」という演目では与太郎にしっかりものの妻がいる。与太郎に錦の袈裟をふんどしをつけて男衆の集まりに送り出す。そして吉原に乗り込むが、与太郎は女達にすっかりもてる。与太郎を殿様だと勘違いしたからだ。周りの男は与太郎のもて振りにすっかりあてられる。

「牛ほめ」だが、新築の叔父の家を訪問し、父親に教えられた通りにほめ言葉を並べて感心されるが、最後に牛を見せられて失敗する。「大工調べ」では腕っぷしのいい大工として登場し、滞納した店賃のカタとして没収された道具箱を取り返すべく、大工の棟梁の助言で、あこぎな家主を相手に訴訟を起こす。お奉行も味方しようとするのだが、ばか正直なためになかなか決着しない。「つづら泥棒」は与太郎が泥棒を試みる数少ない噺。夜自分の家に泥棒にはいるという大失敗をする。

「佃祭」にも与太郎が登場する。佃島の祭りの帰りに渡し船が転覆して死んだと思われた近所の旦那の家に、ほかの住人たちに連れられて長屋の月番で代表の1人として弔問に訪れる与太郎。だが、悔みと嫌みの区別がついていなかったり、最初の一言が「このたびはどうもありがとうございます」だったりで、厳粛な雰囲気をぶち壊しにする。

PK2011110202100131_size0 dogus