懐かしのキネマ その93 【眼下の敵】

【眼下の敵】(The Enemy Below)は、 1957年制作の作品です。第二次大戦中の南大西洋が舞台です。ドイツのUボート (U-boat) 狩りをやっていたアメリカの駆逐艦ヘインズ号(USS Haynes) のマレル艦長(Commander Murrell)は着任以来自室に閉じこもりきりでした。そこで乗組員たちは彼が民間出身のため船酔いで苦しんでいるのだろうと噂し合っています。しかし、彼は彼が着任する直前乗っていた貨物船が魚雷攻撃(torpedo)を受け、愛する新妻が自分の前で死んでいくのを見て憔悴していたのです。

フォン・ストルバーグ艦長

ある日、駆逐艦のレーダーがUボートを捕らえます。初めて彼は乗組員の前に姿を現わし、夜通しの追跡を始めます。一方Uボートの艦長フォン・ストルバーグ(Von Stolberg) は、味方が手に入れた敵の暗号書を本国へ持ち帰るという重大な使命をもっていました。彼は沈着で勇敢な男でしたが、2人の息子を戦争で失い、無益な戦争を呪っていました。こんな2人が海上と海面下で虚々実々の駆け引きを始めます。

しかし、お互い一面識もないもかかわらず、いつしか2人の心にはそれぞれの戦術について、尊敬の念が沸いてくるのです。再び行動を開始したUボートは、とっときの魚雷4本で見事ヘインズ号を射止めます。直ちに浮上したストルバーグ艦長は、マレル艦長に5分以内に離艦するよう要求します。これを見たマレル艦長は全員を退艦させ、自らも離艦すると見せかけ、最後の力をふりしぼってUボートに体当たりを敢行します。

マレル艦長

2隻の艦は沈没しそうになります。その中で敵味方の別なく、海上では彼我の乗員たちが助け合います。全員の脱出を認めて離艦しようとしたストルバーグ艦長は、永年の部下で副官であったシャウファー(Heini Schwaffer)の姿が見えないのに気がつきます。水につかった艦内からシャウファーを救い出したストルバーグ艦長は、これ以上の救出が無理なことを知って艦橋に残ります。そしてUボートに仕かけられた時限爆弾の爆発を待つのです。その時、マレル艦長からストルバーグ艦長へロープが投げられます。2人の海の男の心は今やはっきりと交わり合います。傷ついたシャウファーをロープにむすびつけるストルバーグ艦長、これを引くマレル艦長、この2人のところに生き残った両艦の乗組員が殺到します。

翌日、救援にやってきたアメリカ駆遂艦の甲板で、ストルバーグ艦長とマレル艦長が立ち会い部下の葬儀が行なわれます。ドイツ乗組員により副官の遺体が海に葬られるのを全員が厳粛な気持で見送るのです。