大統領選挙戦報道に見られるフレーズ

注目

 アメリカの大統領選挙戦に見られるニュース報道の中から、普段あまり見かけることが少ないフレーズや語彙を取り上げて英語を復習すると同時に、アメリカの大統領選挙戦の様子を見てみます。

 ドナルド・トランプ(Donal Trump)とカマラ・ハリス(Kamala Harris)は副大統領候補を指名し、各州で選挙戦を展開しています。ますます熱を帯びてきた選挙戦をメディアは取材し、国内や海外に提供しています。両陣営の選挙戦を伝えるニュースからは、そのヘッドラインを見ると記事の内容が理解できます。

 すでに共和党大会は7月18日に終わり、トランプは副大統領候補として連邦上院議員のJ.D.ヴァンス(JD Vance)を指名しました。ハリスはミネソタ州知事のティム・はウォルツ(Tim Walz)を指名しています。民主党大会が8月19日に開かれハリスが正式候補者が決まります。そして投票日の11月5日を迎え、正式に大統領が決まるという日程です。二人とも激戦州とされる7州を遊説しています。この選挙戦では二人が所属する連邦議会の議員や激戦となる州の知事、市長、そして業界の有名人などがそれぞれを応援していて、さながら総力戦の様相となっています。こうした人々の応援演説は、なかなか興味のある内容となっています。

Statue of Liberty

 ブルームバーグ・ニュース(Bloomberg News)とモーニング・コンサルト(Morning Consultant)の最新世論調査によりますと、ハリスの支持率は選挙戦の結果を左右する可能性のある激戦7州全体で見ると48%であり、トランプの47%を上回っているようです。ですが今のところ選挙戦は予断を許さない状況に変わりはないようです。調査を行ったアリゾナ、ジョージア、ミシガン、ネバダ、ノースカロライナ、ペンシルベニア、ウィスコンシン各州でのハリス、トランプ両氏の差は統計上の誤差の範囲内といわれます。どちらに転ぶかはわからないというのが誤差の意味です。

 ただ、バイデン(Joe Biden)に代わってハリスが民主党大統領候補として選挙戦に臨んでいることは、新たな熱狂を生んでいることが調査で明らかとなっています。激戦州では民主党の重要な支持層が勢いづき、投票率が伸びる可能性が示されています。それは、ペンシルベニア州やミシガン州知事の応援演説などからも伺われます。

 それでは、選挙戦の状況をニュースのヘッドラインから見ていくことにしましょう。
Trump melts down as Harris surges in polls.
 このヘッドラインのキーワードは「melt down」と「surges」にあります。トランプの優勢が溶け出して、ハリスのうねり(surge)が高まっていると主張するのです。

 トランプは実業家で作家でもあるメアリー・トランプという姪からも批判を浴びています。それが次の発言です。
The Trump campaign is going up in smoke. Even more crazy, it the complete meltdown of Donald Trump, which he seems to get crazier by the day! Mary gives her take, as she know him unlike anyone else!
 トランプ陣営は煙のように消え去りつつあるといいます。「in smoke」がそれです。さらに狂っている、という指摘です。完全な崩壊は、「complete meltdown」に表れています。「meltdown」は福島の原発停止で何度も聞いたことのある用語です。

 彼女のトランプへの批判について報道は次のようにも伝えています。
Mary Trump Just Hit Her CRAZY Uncle Donald Where it Hurts Most!
 狂った叔父ドナルドの一番痛いところを突いたという意味です。親族であっても言うべきことは言うという姿勢の言葉です。

 トランプはその言動に対して、内と外から多くの批判を浴びています。常識では考えられないような発言が、何故か受けるのですから不思議です。それは岩盤層といわれる多くの支持者がいるからです。
He’s done. His brain is fried.
 トランプは彼は終わった。脳が焼け焦げているというもの凄く強い表現です。

 7月15日の共和党全国大会において、トランプが銃撃されたときの彼の右腕を上げた姿が映し出されたのを見て、多くの識者は、これでトランプが優勢になったと報道していました。その後、8月中旬現在、トランプの支持率は低迷しているようです。固定した支持者がいるのですが、中間層と無党派層の人々の取り込みに苦戦している報道が目につきます。
Arizona, Georgia and Nevada move in Harris’ direction.
 この三つの州はハリスの方向に傾いている、という意味です。

Wall Street is all in on Kamala Harris.
 大手の新聞がどちらを支持するかは気になるとことです。ウオール・ストリート紙はハリスに全面的に賭けていると主張しています。賭けているとは、選挙戦で勝利するのではないかと予想しているのです。

Donald Trump

Losing again? Trump rattled as Harris builds on Obama coalition.
 また負けるのか?とトランプは動揺(rattle)している、という意味です。ハリスがオバマの連合を強化しているからのようです。次のような見出しも同じような見方として考えられます。

Losing again? Trump rattled as the ‘Harris Effect’ surges in key states.
 また負けるのか?というのは、主要な州で「ハリス効果」が高っているので動揺している、という意味です。

15 NEW YORK Billionaires BACKING Kamala Harris’s 2024 Campaign.
 ニューヨークの15人の億万長者がハリスの2024年選挙キャンペーンを支持を表明したという文章です。

Trump WILL LOSE – His INSANITY is to Blame!
 トランプは負けるだろう。それは彼の狂気(INSANITY)が原因なのだ、という強い主張です。

Trump faced a rebellion of campaign staff after car-crash interview.
 トランプは、自動車事故のインタビュー後に選挙スタッフの反旗に直面した、との報道ですが、その真意はよくわかりません。

Trump LOSES IT over EMPTY SEATS at AWFUL Atlanta Speech.
 アトランタでの選挙戦演説の際に空席(EMPTY SEATS)が続いたことで、ひどい演説したという意味です。

Trump stumped by Harris-Walz because he can’t fathom public service.
トランプがハリス・ウォルツにケチをつけた(stumped)のは、彼が公務を理解できないからだというのです。「fathom」とは見抜くとか理解するという意味の動詞です。

 次に、ペンシルベニアの州知事でハリスの副大統領候補の人であったシャピロ(Josh Shapio)のフィラデルフィア(Philadelphia)での応援演説からです。彼の力強い演説内容は評価されています。
We’re not going back.
 我々は後戻りすることはない、というわかりやい言葉です。トランプ政権の政策に後戻りはしないという表明です。

He is a weirdo.
 シャピロ知事は演説でトランプを名指して、彼は変人(weirdo)だ、と糾弾します。「weirdo」スラングです。「weird」という関連用語がありますが、これは「変な」、「おかしな」という意味です。

 次の演説の一部は、参考になりそうなフレーズです。仕事をテキパキとやるときに使われます。
I focus on getting shit done for all of you.
 「getting shit done」は略してGSDとも使われます。シャピロは知事としての任務を素早く片付ける人間であると自慢するのです。ピッツバーグ市で長さ約136mの道路橋が崩落し、それを素早く修復したことを指しているようです。「shit」は普段は使わない言葉ですが、、、

Donald Trump Is a Psychopath & He Will Be Stopped.
 トランプは、妄想・幻覚・乱雑な思考と発語・非現実的で奇妙な行動の人間で精神病質(psychopathy)であるというのです。だから辞めさせたほうが良いという意味です。次の見出しも同じようトランプの状態を指しています。

Trump Has MENTAL COLLAPSE as ENTIRE LIFE CRUMBLES.
 トランプは精神的に崩壊し、人生全体が崩れている(CRUMBLE)、というのですから辛辣です。

‘Wuss’: George Conway on why Trump is ‘scared’ to debate Kamala Harris.
 「臆病者」:ジョージ・コンウェイというコンメンテーターが、トランプがカマラ・ハリスとの討論を「恐れている(scared)」理由を、臆病だからだというのです。「Wuss」という用語は通常は会話では使ってはいけないです。

 CNNニュースのヘッドラインからです。
‘He’s afraid’: Sen. Mark Kelly on Trump’s racial attacks against Harris. Trump is a desperate and scared old man.
 マーク・ケリー(Mark Kelly)上院議員は、トランプの人種問題に関する攻撃的な発言に対して、トランプは絶望し(desperate)、怯えている(scared(老人だ、と看破します。ケリーはアリゾナ州選出の上院議員で、ハリスの副大統領候補の一人でした。

 しかし、トランプもハリスに対しては黙っていません。次のごとく歯にも着せないように攻撃します。
Meet the Real Kamala. Weak.Failed. Dangerously Liberal.
 カマラに会ってみたまえ、本当のカマラはひ弱で失敗している。彼女は危険なリベラルなのだ、というのです。

 トランプはさらに次のようにハリスを批判します。
She is a radical left lunatic, and the worst border czar and vice president in history!
 彼女は極左の狂人で、史上最悪の国境担当大臣であり副大統領だ!「lunatic」とは狂ったということを指し、「czar」とは皇帝という意味ですが、ここでは大臣としておきます。国境とはメキシコとの国交のことです。彼女はバイデン政権でメキシコとの国境問題を担当していました。

 ニューヨークタイムズ紙ではコンメンテーターが次のように書いています。
In recent days, he has referred to Harris as incompetent, nasty, and not smart. Behind closed doors, he has reportedly reflected to her, repeatedly using the B-word.
 トランプは公然とハリスを無能、意地悪、そして賢くないなどと呼んでいます。「Behind closed doors」とは、密室という意味です。「B-word」のBとは「Bitch」という女性を罵る時に使われる表現です。”いやな女”という意味です。

 このところ支援団体だけでなく、労働組合や宗教関連団体、シンクタンクなどが立場を鮮明にしています。
Union Chief Shawn Fain discuses his breaking endorsement of Kamala Harris and gives his two top VP picks for the ticket: Kentucky Governor Andy Beshear and Minnesota Governor Tim Walz.
 自動車労働組合委員長のショーン・フェインは、ハリスの支持を表明し、副大統領候補としてケンタッキー州知事アンディ・ベシア氏とミネソタ州知事ティム・ウォルツの2人を挙げています。彼の予想どおり、ハリスはウォルツを副大統領候補に指名しました。「VP picks for the ticket」とは、くだけた表現で「副大統領候補のチケット」のことです。

UAW files federal labor charges against Donald Trump and Elon Musk after threatening workers on X interview.
 SNSのX(旧ツイッター)とのインタビューで自動車労働組合は、労働者を脅迫したとしてトランプとイーロン・マスク(Elon Musk)に対して連邦労働訴訟を起こします。連邦の労働者権利の保障を侵害しているというのです。ただ、こうした訴訟は、一種のネガティブキャンペーンのようなところがあるようです。

 トランプは、次のような地球温暖化の懸念に対して不可解な持論を述べています。
You know, the biggest threat is not global warming where the ocean is gonna rise 1/8 of an inch over the next 400 years. The biggest threat is not that, the biggest threat is nuclear warming. Because we have five countries now that have significant nuclear power.
 知ってのとおり最大の脅威は、今後400年間で海面が1/8インチ上昇するというのは、地球温暖化ではない。最大の脅威はそれではなく、核による温暖化であり、現在、5つの国が大規模な原子力発電所を保有しているためだと主張します。1/8インチとはたったの3ミリのことです。

 それに対してコンメンテーターは、次のように揶揄するのです。
NOAA data:Sea level near Mar-a-Lago increases 1/8 inch every 9 months.
アメリカ海洋大気庁(NOAA)によれば、トランプが住むフロリダ州のマール・ア・ラゴ付近の海面は9か月ごとに1/8インチ上昇するのだ、と反論しています。つまりトランプの主張は全く科学的根拠がなく出鱈目だという指摘です。

 CNNニュースに次のようなコラムがあります。
Donald Trump is behind. He trails in the pivotal postindustrial swing states and is treading water in the Southern and Sun Belt states.
 「treading water」とは足踏みしている、とか伸び悩んでいるという意味です 「treadmill」という運動器具があります。ジムにある動くベルトの上を足踏みする器具ですね。「pivotal」とは重要な、決定的な、という意味で使われています。

 政治に特化したアメリカのニュースメディア、ポリティコ(POLITICO)は、ロバートと名乗る者からトランプ陣営の内部文書を受け取ったと報じています。
POLITICO received internal Trump documents from ‘Robert.’ Then the campaign confirmed it was hacked. The campaign suggested Iran was to blame. POLITICO has not independently verified the identity of the hacker or their motivation.
 トランプ陣営は、この報道を受けてハッキングされたことを確認しています。ポリティコはハッカーの身元や動機を独自に確認していないのですが、陣営はイランが原因であると示唆しています。このような報道もネガティブキャンペーンの色合いが強いです。「Iran was to blame」という表現は、イランのせいだ、という意味です。

It’s just madness’: Inside Trump’s laundry list of increasingly bizarre claims
 「それはただの狂気だ」:トランプの主張はまるで洗濯物のようなリストのような、ますます奇妙な内容だ、という表現です。「laundry list」という表現は、面白いですね。わかりやすい言葉で、汚れた着物のリストのようだというのです。誠に正鵠を得ている表現です。

 放送ネットワークNBCとマイクロソフトが共同で設立したMSNBCニュースのアンカーマンであるLawrence O’Donnellが次のように報道しています。
.Lawrence: Everything out of Trump’s mouth is ‘real garbage’ and it should be treated as such.
 トランプの口から出てくるものはすべて「本物のゴミ」であり、そのように扱われるべきだ、というのです。「garbage」というのは誠にきつい、厳しい形容です。

 2012年大統領選挙での共和党の候補であり、上院議員であったミット・ロムニー(Mitt Romney) の演説の中に次のようなフレーズがあります。
Watch Mitt Romney’s full speech: ‘Trump is a phony, a fraud.’
 これまた厳しい形容です。トランプは偽者(phony)であり、詐欺師(fraud)だというのです。

 ペンシルベニア州ウィルクス・バリで行われたドナルド・トランプの悲惨な演説についてリポートしています。
MeidasTouch reports on Donald Trump’s disastrous speech in Wilkes-Barre, Pennsylvania where he spent a lot of time talking about how he believes he is better looking than VP Kamala Harris.
 トランプは、自分が副大統領のカマラ・ハリス氏よりもかっこいいと思っていると長々と語っていたというのです。

 最後にドナルド・トランプとイーロン・マスクの会話です。
Donald Trump conversation with Elon Musk
I saw a picture of her on Time Magazine today. She looks like the most beautiful actress ever to live. It was a drawing, and actually, she looked very much like a great first lady, Melania. She looked, she looked, didn’t look, she didn’t look like Camilla. That’s right. But, of course, she’s a beautiful woman, so we’ll leave it at that, right.

 タイム誌で彼女の写真を見たが、彼女は史上最も美しい女優のようである。しかし、それは写真ではなく絵だったが、実際、彼女は偉大なファーストレディのメラニアにとてもよく似ている。彼女はカミラ夫人に似ていない。その通りだ。

Kamara Harris on Time magazine

 メラニアとは、トランプ夫人のこと、カミラ夫人とはチャールズ国王の奥方です。さすがに女性の容姿を語るのはまずい、と思ったのか「so we’ll leave it at that, right」といって「この話はこれで終わりにしよう」と切り上げます。一体全体、カマラ・ハリスを自分の夫人、そして国王妃と比べるのが大統領候補者としての演説なのでしょうか。

 両陣営もネガティブキャンペーンをしがちなのが気になります。もう少し、世界情勢に関する政治状況や国内政策について二人の見解が欲しい感じがします。経済問題とか人種差別問題、不法移民の問題などたくさんあるはずです。次の候補者討論会は9月10日となり、FOXニュースで全世界に放映されます。両陣営は、虚々実々の駆け引きをしているようですが、

(投稿日時 2024年8月20日)  成田 滋