「間男」とは広辞苑によれば「有夫の女が他の男と密通する」とある。この間男を話題とする落語も結構ある。古今東西、不倫は人間の興味の尽きない話題である。古典落語では、間男は陰険な男女関係を描くよりも、女性のたくましさとか男性のか弱さによって健康な笑いを醸し出すようなところが多い。男性中心社会へのささやかな抵抗といった文化も感じられる。ジェンダー研究の下地になるようだ。
間男を扱う演目に「紙入れ」がある。新吉という貸本屋の丁稚がいる。この本屋に出入りするおかみさんに誘惑される。そして旦那の留守中に迫られる。だが旦那が予定を変更してご帰宅。慌てた新吉はおかみさんの計らいで辛うじて脱出する。ところが、旦那からもらった紙入れを忘れる。紙入れにはおかみさんからの誘いの書き付けが入っている。
焦った新吉は逃亡を決意するが、ともかく様子を探ろうと、翌朝再び旦那のところを訪れる。出てきた旦那は落ち着き払っている。変に思った新吉は、昨夜の出来事を語ってみるが、旦那はまるで無反応。ますます混乱した新吉が考え込んでいると、そこへ浮気相手のおかみさんが通りかかる。旦那が新吉の失敗を話すと、おかみさんは「浮気するような抜け目のない女だよ、そんな紙入れが落ちていれば、旦那が気づく前にしまっちゃうよ」と新吉を安堵させる。サゲだが、旦那が笑いながら続けて「まあ、たとえ紙入れに気づいたって、女房を取られるような馬鹿だ。そこまでは気が付くまいて。」
既にこの欄で取り上げた演目「締め込み」も間男を疑う旦那と女房と盗人との可笑し味ある対話である。ある盗人が家に入り、箪笥をあけて衣類を風呂敷で包み、さあ逃げようとするとき旦那が帰ってくる。盗人はあわてて台所の床下にもぐりこむ。風呂敷包みを開けると、そこに女房の衣類が入っている。さあ、これは女房が間男して駆け落ちしようとしているに違いないと、旦那は動転する。そこに女房が帰ってきて大騒ぎとなる。