シリュルニク (Boris Cyrulnik)の両親がユダヤ人強制収容所に送られたこと、自分もその運命にあったことは大きな衝撃だったろうと察せられます。シリュルニクは看護師によって保護され、やがて自分が孤児院で生活したことを振り返ります。精神科医になるために彼を導いたのは、この心的外傷という個人的な経験だったと後で語っています。
「一人ぼっちの子どもに回復力はない。回復力とは相互作用であり、かかわりのことである」とシリュルニクはいいます。トラウマの苦しみを蒙った子どもにレッテルを貼って、希望のないような将来へ子どもを追いやらせないことの重要性も強調します。トラウマを構成する二つの要素を取り上げます。一つは負った傷であり、もう一つはその傷が再現されることです。子どもにとって最もダメージの大きいトラウマの後の経験は、その出来事について大人が下す公然と辱めるような解釈だとも主張します。レッテルによってダメージはいっそう大きくなり、もとの経験以上に酷い結果をもたらすというのです。
人は関係を築くなかで回復力を形成します。やりとりする言葉や高まる感情を通して、出くわすさまざまな他人や状況と「織りあわせ」ていきます。さらにポジティブな感情やユーモアもまた、回復力における鍵だともいいます。困窮のなかにも意味を見いだし、それを有用で啓発的な経験とみなし、そればかりかそれを笑い飛ばす術さえ見いだすことができるという主張です。回復力のある人々は、たとえ現在がどれほど苦しくとも、将来、事態がよりよい方向へ転じるかもしれないと考える力を決して忘れないともいいます。