心に残る一冊 その1 定年退職後の読書

定年退職から十数年が経ちます。退職を機に持っていた本を整理しました。移り住むことになった東京の住み家がコンクリートの長屋なので、保管する場所があまりありませんでした。以前は研究室という誠に都合の良い保管場所がありました。

研究室を去るにあたり二つのことを考えました。「専門書は棄ててまだ読んでいない本を残す」、「学生時代に心に残った本を読み直す」ということです。いわゆる専門書のほとんどは、回収業者のところに持っていきました。中には学生時代に購入した岩波書店のものもたくさんありました。岩波書店には絶大な信頼を置いていました。

高校時代に、一教師より「沢山の小説を読むように」と言われたのが私の読書のきっかけとなります。この教師は英語の担当でした。それ以来、受験勉強の傍ら、大学での予習復習の合間に随分読むことができました。

大分すっきりした本棚には、また新しい本や書類が雑然と積まれています。捨てなかった大事な本ももちろんあります。ところで私の父も本の虫でした。定年後は部屋に閉じこもってはむさぼるように本に食い入っていたようです。そして、「”ユリシーズ”はなんど読んでもわからない」とか「”戦争と平和”はすごいけど、誰が誰だったかがわからなくなる」などといっていました。確かに、ロシア人の名前は似たところがあります。父がこんがらかったのも無理はありません。

”ユリシーズ(Ulysses)”はアイルランドの作家ジェイムズ・ジョイス(James Joyce)の小説。”戦争と平和”はロシアのレフ・トルストイ(Lev Tolstoy)の作品です。