心に残る一冊 その7 「二十年後」 

庶民の哀歓や思いやりを描き出した短編の一つが 「二十年後」(After Twenty Years)です。オー・ヘンリーはかつて勤め先のオハイオ銀行で金を横領した疑いで服役した経験があります。ヘンリーは服役前から短編小説を書き始めていたようです。服役中にも多くの作品を密かに新聞社や雑誌社に送り、3作が服役期間中に出版されたといわれます。

刑務所での待遇は良く、獄中で薬剤師として働いていたため、監房ではなく刑務所病院で寝起きし、夜の外出許可まで出されていたようです。模範囚として減刑されやがて釈放されます。その後、本格的に短編小説を世におくっていきます。

ローワー・イースト・サイド(Lower East Side)に一人の巡査がパトロールをしてやってきます。時間はまだ夜10時になっていないのですが、小雨を含んだ冷たい風が通りから人々を追いたてていました。そこに男がやってきて、巡査に声をかけるのです。
 男 「今、友達を待っているんだが、、20年前にここで会おうと約束をしたんだ。」
 男 「おかしなことだろうと思うだろうが、、もしなんなら説明してもいいんだ。」
 男 「昔、ここにレストランがあったんだ。この店が立つ前のことだが。」
 男 「Big Joe’ Brady’sレストラン」という看板の店さ。」
 巡査 「五年前に立ち壊されたんだ。」
 男 「20年前の今夜、ここにあったBig Joe’ Brady’sレストランで友達のJimmy Wellsと夕食をしたんだ。2人ともニューヨーク育ちで兄弟のような仲だったな。やがて仕事を求めて俺はJimmyと別れ西部へ行ったんだ。その時、どんなことがあっても20年後に、ここで会おうと約束したのさ。」
 巡査 「いい話だな。その後、友達から便りがあったのか?」
 男 「しばらく手紙をやりとしたが、その後消息をつかめなくなった。」
 男 「だがJimmyが生きていれば、かならず約束を守るだろうと思って西部からはるばるここにやってきたのさ。」
 男 「10時3分前だな、、」

巡査は警棒をくるくると回しながら、仕事に戻ろうとします。
巡査 「友達は時間通りやってくるのか?」
 男 「30分は待つつもりさ。生きていればJimmyは必ずやってくるよ。」

約束の時間から20分後に長いコートを着た背の高い1人の男が路の反対側から待ち人の方向にやってきます。
 男 「Bobか???」
 背の高い男 「そういうお前はJimmy Wellsか??」
 男 「随分背が高くなったんじゃないか?」

2人は再会を喜び合うのです。そしてBobは背の高い男と腕を組み歩きながら20年間の出来事を語りだします。背の高い男は静かに聞いています。

街角の明るく輝くドラッグストアの前で2人はたちどまり、見つめ合うのです。その時男は叫びます。
 男 「お前はJimmy Wellsじゃないな、、、」
 背の高い男 「Silky Bob、お前は10 分前から逮捕されている。シカゴ警察はうちの管轄にお前が潜りこんだかもしれんと電報がきたいるんだ。だが、署に行く前にここにお前宛の言づてがある。先ほどのWells巡査からのものだ。」

「Bob、俺はお前との約束の時間と場所にいたんだが、お前がタバコをすおうとマッチをすったときに、シカゴ警察が捜している男だとわかったのだ。お前を逮捕するのは忍びなかったので、この男に頼んだ。」