心に残る一冊 その38 「クォ・ヴァディス(Quo Vadis?)」

ポーランドの作家ヘンリク・シェンキェヴィチ(Henryk Sienkiewicz) の作品です。私が学生のときに手にした小説です。「クォ・ヴァディス(Quo Vadis Domine)」というのはラテン語だそうです。その意味は、「あなたは一体どこへ行こうとしているのですが?」 Quoはどこへ、Vadisは行く、Domineは主人という意味です。

この小説のモチーフはヨハネによる福音書(Gospel according to John) 16章5節 や使徒行伝(Acts)にあるキリストと使徒ペテロとの対話です。ペテロ(Peter)はキリストの逮捕、磔という受難を知らず、「先生、どこへ行かれるのですか?(Quo Vadis, Domine?)」と尋ねます。キリストは言います。「ローマで伝道してくるが、やがて捕らえられるだろう、、」

時代はローマ帝国、ネロ・クローディアス(Emperor Nero Claudias)の治世です。本書はネロ帝治下のローマを舞台です。若いキリスト教徒の娘リギア(Lygia)と、ローマ人マルクス・ウィニキウス(Marcus Vinicius)の間の恋愛をいきいきと描きます。リギアはスラブ系の出身。そんな家系のリギアにローマ軍の大隊長であるマルクスは恋に落ちます。マルクスは彼女がキリスト教徒であることを知りません。当時、キリスト教は禁教ですから、二人の恋の成就は困難かにみえました。しかし、二人の絆は深まります。「リジアのためにその神を信じます」とマルクスは誓います。

ネロによるキリスト教徒の迫害が始まります。ローマで大火が起こりますが、それをキリスト教徒の仕業であるとネロは宣言します。実はローマに放火したのはネロの命令だったのです。やがて二人は逮捕されて闘技場コロセオ(Colosseo)に連れられます。キリスト教徒がライオンの餌食になり、また火あぶりになる様子をリギアやマルクスは見守ります。

コロセオでは奇蹟が起きます。マルクスは群衆に叫びます。「ネロがローマを焼き、多くの人々を殺した。圧制は終わりだ。」 ローマ市民が呼応してネロの圧政に立ち上がります。