大統領選挙戦「離脱声明」の英語

注目

 今回のアメリカ大統領ジョセフ・バイデン(Joseph Biden)の選挙戦からの「離脱声明」は、高校生や大学生の英語の勉強に役立つ記事です。そのことを本稿で取り上げます。

 「離脱」という表現にあたる英語の単語はいろいろとあります。離脱とは、終了や撤退、脱落とか撤収、断念とか辞退という言葉に置き換えることもできます。そしてそれに相応しい、いろいろな英単語や文章が浮かびます。そこで、New York TimesやBBC(British Broadcasting Corporation)の報道で「離脱声明」をどのように表現しているかを振り返ってみます。

 「Biden tells staff leaving race was right thing to do.」 この文章では選挙戦から離脱するという意味で「leaving」を使っています。「leaving」という意味は、病気や高齢のために離脱するという中立的な表現であります。やむを得ず離脱するというニュアンスがあります。次のように「end」を使う報道もあります。「Biden ends failing reelection campaign.」ここでの「end」は、どのような理由にせよ、バイデンは選挙戦を辞めたという中立的な表現です。受験で登場する「put an end」も同じような響きがあります。

バイデン大統領とハリス福大統領

 次ぎに「abandon」も使われています。「Biden abandoned his campaign for a second term under intense pressure from fellow Democrat. 」 文字通り選挙戦から離脱したというという報道です。民主党内からの強い圧力により二期目の再選から撤退したのです。側近や民主党員、そして世論から見放されている、という場合は「President Biden has been abandoned by his aides, Democrats, and the public.」となります。

 「撤退」といえば「withdraw」が状況を表現する適当な単語かもしれません。「Biden withdraws from race in presidential earthquake.」大揺れの大統領選挙運動から撤退、という意味で使われています。撤退という単語は戦争状況でも使われます。「It will be two years on the 30th since US troops withdrew from Afghanistanを.」 アメリカ軍がアフガニスタン(Afghanistan)から撤退してこの30日で2年が経過するという表現ですが、「withdraw」がピッタリします。「Will Russian troops soon withdraw from Ukraine?」ロシア軍は間もなくウクライナから撤退するでしょうか?

 「選挙戦から脱落」という表現は「Biden drops out of presidential race and endorses Harris.」という文書に現れています。大統領選挙運動から脱落し、ハリス(Kamala Harris)副大統領を候補者として応援するというのです。「drop out 」という易しい単語はしばしば使われます。退学するとか、不登校になるという場合も使われ、馴染み深い表現ですが、少々耳目を集める表現でもあります。アメリカのメディアは、読者に判りやすい「drop out 」を使いがちです。しかし、BBCには、こうした直截的な表現は見当たりません。

 BBCのヘッドライン・ニュースでは、次のような文章も見られます。「US President Joe Biden standing down from 2024 presidential race, endorses Kamala Harris.」ここでは、「standing down」という熟語ですが、退任するとか退くという意味で、2024年大統領選から撤退、ハリス氏を支持、となっています。

 もう一つのBBCのヘッドラインは次のように報道しています。
「Biden says he quit presidential race to unite party and country.」 「quit」という動詞は現在形も過去形も同じです。「Biden stepped aside as the Democratic candidate for November’s election and endorsed his Vice President Kamala Harris.」 「step aside」も撤退とか退くという表現です。覚えておきたい熟語です。

 7月21日にバイデン大統領は「Fellow Americans」と題する声明を発表し、その中で次のように述べています。「I believe it is in the best interest of my party and the country for me to stand down and to focus solely on fulfilling my duties as President for the remainder of my term.」 自分は退任し、残りの任期中は大統領としての職務を全うすることに専念することが、私の党と国にとって最善の利益であると信じるという、凛とした表現となっています。

バイデン大統領は7月24日に大統領オフィスから選挙戦撤退の理由を国民に伝えます。そして民主党の大統領候補として副大統領のカマラ・ハリスを次のような表現で推薦します。「She’s experienced. She’s tough. She’s capable」 この文章では、並列(parallelism)という修辞法を使い、短い文章によって視聴者に強く印象づけています。

 文章や表現上での単語の選び方や修辞は大切です。メッセージを読む人や聞く人の心に残る動詞を考えるのが要諦なのです。

英語あれこれ その19 語学力をいかに高めるか

外国語の理解には、その国の文化や政治についての基礎知識が必ず必要である。こうした知識や未知の話題に対する好奇心によって対話が成立する。「安倍首相の人気はどこにあるか?」と尋ねられたとする。「英語ができるから」、「彼の政治スタイルは外国人に理解しやすいから」、「親米主義だから、、」。こんな説明では、この者は安倍を知らんな、と相手はすぐ感じる。

「中国や韓国には領海や領土問題で妥協しない姿勢だから」、「女性の社会進出に積極的な政策を打ち出している、、」。こうした答えには相手は納得するはずだ。対話をするには、話題をある程度まで煮詰めた知識があること、これが第一の対話の条件である。

次に要求されるのは、話題の内容を理解し説明できる語彙や単語を力を持っていることである。先ほどの例では難しい単語が必要な場合もあるが、会話のレベルでは専門用語を知らなくても結構対話は成立する。話題の内容を知っていて、普段からなにがしかのことを考え、意見を持ちあわせていると文章はつくれる。

専門家はその筋の話題については難しい用語を使うのは当然だが、我々にはそこまで要求されない。むしろ、「家族や友だちにそのことを研究している者がいる」、「日本でも話題となっている、その理由は、しかじか、、」くらいが説明できればよい。中学や高校の英語力で対話ができるのは間違いない。自信を持つことだ。

ネット上でのBBC、USA TODAYなどのニュースに毎日目を通すことも大事だ。新しい知識を身につけると同時に、世の中の動きに疑問を持つことがもっと大切である。不可解なこと、理不尽なこと、いくらでもある。英語力とは実は、こうした物事への好奇心の高まりと相まってつくものである。「語学を学ぶ」と同時に「語学で学ぶ」という姿勢も大事にしたい。

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