心に残る名曲 その百六 オルランド・ディ・ラッソ その2 「マトナの君よ」

 ラッソの作品約1,200曲の中の一つが「マトナの君よ」(Matona, mia cara)です。フランドル楽派(Flemish School)の伝統である対位法を基礎にとしながら劇的な情緒表現がこの作品に顕著にみられます。フランドル楽派とは、15〜16世紀のルネッサンス期(Renaissance)にヨーロッパで活躍した楽派です。フランドルとは、今のオランダ、ベルギー、そして北フランスを含む低地地方です。この楽派はモテット(Motet)やミサ(Mass)などの教会音楽、さらにシャンソン、マドリガルなどの世俗的な音楽の分野で活躍し、主として声楽ポリフォニー様式によっています。


 モテットはラッソの作品中でもっとも重要なジャンルとなっています。彼の音楽語法のすべてが示されているといわれます。モテットの語源ですが、言葉を意味するフランス語の「Mot」に由来します。モテットは、中世およびルネッサンス時代の最も重要な楽曲形式です。16世紀に完成した「通模倣様式」(through-imitation style)による多声部分による教会用ポリフォニー、いわゆる多声唱曲がモテットです。

 通模倣様式とは、ルネサンス音楽期における作曲技法です。 各声部がまったく均等な関係で模倣を行う多声作曲様式のことです。いずれかの声部が定った旋律を保持し,他の声部がそれに対位する定旋律を歌います。ルネッサンス期のモテットは4声部が一般的ですが、ラテン語による典礼歌詞では4〜6声部の合唱曲が主流となります。ラテン語の宗教詩とフランス語の恋愛詩が一緒になり、宗教的要素と世俗的要素が共存していきます。

 ラッソは、当時のルネッサンス人文主義の影響を受けたようです。ルネッサンスとはギリシアやローマの文化を復興しようとする文化運動で、14世紀頃にイタリアに始まりヨーロッパに広がります。「文芸復興」とも呼ばれます。人文主義運動とも云われます。音楽と言葉の結びつきに強い関心を示し、歌詞に対する絵画的な、あるいは劇的な感情表現を強く打ち出したのがラッソです。「マトナの君よ」は、田舎者の兵士がマドンナをくどく歌です。強弱のメリハリがきき、主旋律が4回繰り返され、毎回どこかの音を変えている複雑な音程です。

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