心に残る一冊 その13 「愛蘭土紀行」 (街道をゆくから)

司馬遼太郎の「街道をゆく」シリーズは、日本国内はもとよりアメリカ・オランダ・アイルランド(Irland)・モンゴル・中国・韓国・台湾などを紀行したときのエッセイ集です。「南蛮のみち」はフランスやスペインのバスク人(Basque)を題材としています。

アイルランドの首都はダブリン(Dublin)。アイルランドからは、ケルト文化(Celtic Culture)、アイリッシュダンス(Irish Dance)、セントパトリックデイ(St. Patrick Day)、さらには歌手で作曲家のエンヤ(Enya)が思い浮かびます。政治家や映画にもアイルランド系(アイリッシュ)の人が沢山活躍しています。例えば元ケネディ大統領やレーガン大統領、俳優のジョン・ウェイン(John Wayne)や映画監督のジョン・フォード(John Ford)などです。小説家ではサミュエル・ベケット(Samuel Beckett)、ジェイムズ・ジョイス(James Joyce)、そして詩人で劇作家のウィリアム・イェーツ(William Yeats)などが輩出しています。タータン( tartan)という多色の糸で綾織りにした格子柄の織物も知られています。

アイルランドは、1650年代にクロムウェル(Oliver Cromwell)による過酷な植民地支配を受けます。クロムウェルはイングランドの政治家であり軍人でありました。彼はイングランド共和国(Commonwealth of England)初代の護国卿(Lord Protector)となります。さらにプロテスタントによるカトリック教徒であるアイルランド人への迫害が長く続きます。さらにイングランド人による搾取によっておきたジャガイモ飢饉でアイルランド人が大勢亡くなるのです。こうした植民地支配でイギリスに対して伝統的に敵対した関係が長く続きます。20世紀では特にアイルランドへの帰属を求めて、イギリス領北アイルランドではテロ行為が過激派IRAによって引き起こされたのは記憶に新しいところです。イギリスが光とすればアイルランドは影のような歴史があります。

司馬遼太郎は「愛蘭土紀行」において、アイルランドだけでなくアイルランドと関係のある国、関連する歴史を掘りおこし、アイルランドの人々に流れる精神にスポットをあてます。独自の史観や文化観によって、その地の歴史や地理や人物を克明に描写するのが特徴です。「街道をゆく」という名前から、司馬遼太郎は人や物が交流する「街道」や「海路」にこだわり、日本や世界の歴史を展望しているといえましょう。