クリスマス・アドベント その19 “Miserere”

旧約聖書も詩篇(Psalm)第51篇をもとに作曲された合唱曲 “我を憐れみたまえ”(Miserere)を紹介します。作曲したのは、イタリアの聖職者で作曲家のグレゴリオ・アレグリ(Gregorio Allegri)です。アレグリは、誓願を立ててアドリア海(Adriatic Sea)に面するマルケ州(Marche)のフェルモ(Fermo)大聖堂より聖職禄に加わります。この地で数多くのモテット(Motets)やその他の宗教曲を作曲して、ローマ教皇ウルバヌス8世(Urban VIII)の注目を得るようになります。

やがてローマのヴァチカン宮殿(Palace of the Vatican) にあるシスティナ礼拝堂 (Cappella Sistina)聖歌隊にてコントラルト(contralto)歌手の地位を得ます。コントラルトとは、ソプラノの下でテノールの上の音域を歌える男性歌手のことです。似たような歌手にカウンターテナー(countertenor) がいます。これは女声に相当する高音域を歌う男性歌手のことです。
“Miserere”を紹介します。合唱の構成としては、一方は4声部、他方は5声部からなる二重合唱曲となっています。礼拝堂において、合唱団の片方が主旋律である〈ミゼレーレ〉の原曲を歌うと、少し離れて位置するもう一方の団員が、それに合わせて装飾音型で聖句の「解釈」部分を歌います。ルネサンス音楽の特徴である複数の独立した声部(パート)からなる音楽のポリフォニー様式 (polyphony) の典型的な作品です。ポリフォニー様式ではありますが、全声部が模倣を行う通模倣様式ではなく、和声的様式(ファミリアーレ様式)をとっています。このあたりの説明は難しいので、曲をお聴きになると理解できます。

“Miserere”はシスティナ礼拝堂にて、復活節の水曜日から金曜日にかけて行われる早朝礼拝(matin)の中の特別な礼拝「暗闇の朝課」に際して用いられたといわれます。「暗闇の朝課」の儀式は通常午前3時ころから始まり、ロウソクの灯りを1本ずつ消してゆき、最後の1本が消されるまで続きます。この曲は、霊的な特性を維持するという目的でシスティナ礼拝堂聖歌隊の他に楽譜を伝えることが禁じられます。前述の特別な礼拝でのみ演奏されることを許され、いわば門外不出の秘曲となります。

このように“Miserere”は、イースター(Easter)前の金曜日にシスティナ礼拝堂での典礼に参加して、そこでしか聴くことができない音楽となっていました。もっとも有名なエピソードは、1770年に父親に連れられた14歳のモーツァルト(Wolfgang Amadeus Mozart)がローマを訪れたとき、この曲を2度聴き、そのときの記憶を基に忠実に楽譜化したことです。その楽譜を当時の教皇に献呈した、ということが言い伝えられています。

心に残る名曲  その二 カンタータとバッハ

私は節操もなくいろいろな音楽を楽しんでいます。専ら合唱をやってきましたが、アルトリコーダも少し吹きます。長男はヴァイオリンを弾き、孫達もビオラやピアノの演奏をしては、YouTubeでその様子を送ってくれています。私は若いときにルーテル教会で洗礼を受けたこともあり、バッハ(Johann Sebastian Bach)の作品はどうも心の波長に合うのです。聖歌隊でも彼の作品をずいぶんと歌いました。その一つが「カンタータ第140番「目をさませと呼ぶ声が聞こえ」BWV140」というのです。

バッハ作品のタイトルの終わりには、かならず「BWV」という略語がついています。「BWV」とは、ドイツ人音楽学者のシュミーダー(Wolfgang Schmieder)が1950年に著したバッハの音楽作品目録のことです。この目録は世界中の音楽学者や音楽家に採用され、国際的な標準となりました。このナンバリングシステムによりますと、カンタータ(Cantata)とかモテット(Motet)類にはBWV1から231が付けられています。

バッハの経歴を音楽大事典で調べるとかなり劇的というか、波瀾万丈なところがあったようです。作曲やオルガン演奏に秀でていたので、周りとの衝突もあったことを伺わせます。次回はカンタータ第140番「目をさませと呼ぶ声が聞こえ.BWV140」のことです。

ついでですが、モーツァルト(Wolfgang Amadeus Mozart)の作品には、ケッヘル(Köchel)という番号がついています。作品には略記号のKがついています。ケッヘル(Ludwig von Köchel)が整理した目録でケッヒェル目録と呼ばれています。「ヴァイオリン協奏曲第二番ニ長調, K 211」といった具合です。