心に残る一冊  その130 「虚空遍歴」 その二 浄瑠璃

「虚空遍歴」で主人公が中藤冲也が浄瑠璃の新たな姿を追い求めた遍歴に入るまえに、「日本文化いろは事典」や「ジャポニカ 大日本百科事典」などを参照しながら、浄瑠璃とはなんぞやを考えていきます。以前、友人に連れられて大阪は日本橋にある国立文楽劇場で初めて文楽を鑑賞したときの印象も交えます。文楽劇場の座席正面右に出語り床があり、肩衣を着用する大夫という語り手と三味線弾が坐ります。見台には床本があります。

浄瑠璃は劇中の人物のセリフやその仕草、演技の描写をも含み、語り口が叙事的な響きをを持ちます。このため浄瑠璃を演じることは「歌う」ではなく「語る」と言います。浄瑠璃系統の音曲をまとめて語り物と呼ばれます。

中世以来の諸音典を綜合した語り物の総称が浄瑠璃です。初めは素朴な音楽的物語で、伴奏には扇拍子や琵琶が用いられました。やがて三味線が伴奏楽器となり、太夫が詞章を語る音曲・劇場音楽となっていきます。さらに操り人形も加わり独特の語り物による楽劇形態として完成していきます。

こうした諸芸能が統合され、近松門左衛門の詞章で、豪快華麗な曲節が特徴である義太夫節によって舞台の人形が操られるとき浄瑠璃は近世的、庶民的性格をもつ音楽、文学、演劇の融合芸能として発展します。

ところで、「浄瑠璃」という名称の出所です。16世紀の室町時代、誕生した語り物の中に、牛若丸と浄瑠璃姫のロマンスを題材にした物語があり、人気を集めたといわれます。岡崎の地で、牛若丸と浄瑠璃姫が出合い、お互いに恋い焦がれ、惹かれあうものの、揺れ動く時代の中で悲恋の結末となるのが「浄瑠璃姫物語」です。