留学の奨め その9 研究者の仕事探しと異動

今回はアメリカの研究者の異動に関する話題である。若手の研究者とって、大学での仕事探しはどこも大変なものである。 彼らは業績やキャリアが不足しているので、誰もが通過しなければならない難関である。大学におけるポストの空きの広告がでると、自分の研究分野をにらみながら応募することになる。

はじめは、自分の研究業績のレジュメ(resume)を大学に送る。研究業績にはポスドクの経歴も入る。この書類審査を通過すると大学での人事選考委員会に招かれる。この時の旅費は招く側が負担する。ここが日本と違うところだ。首尾良くポジッションを得るしても、大抵は3年の雇用契約である。ここから終身雇用身分であるエニュア(tenure)への途が始まる。雇用契約が切れ更新がないとまた仕事探しである。まるで渡り鳥のように転々とする。その間業績を増やしていく。米国にもコネ(old boy connection)が働く。

もう一つは、大学が特定の研究者に招聘状を出す場合である。招聘する側からの一本釣りである。こうした研究者は研究業績にすぐれ、名が知れた人達である。引き抜く方の大学はその研究者の収入などを事前に調べ、それ以上の条件を提示する。例えば1.5倍の給料をだすとか、という具合である。指名された研究者は、提示された待遇、大学の所在地の環境、同僚となるスタッフの研究状況などを調べ自分の研究にプラスになるかなどを考慮する。

このとき、研究者は自分の上司や学部長などに「他大学から1.5倍の給料でオファーがきているが、もし大学が今の給料を上げてくれれば残るが、、、、」と交渉するのである。学部長が「お前に残って欲しい。給料を上げよう」といえば、他大学からのオファーを断る。「予算がないので、給料を上げるわけにはいかない」といえば、移ることになる。このように交渉が可能なのが面白いところだ。また学部長も予算やスタッフの給料を決める裁量を持っているのも驚く。

総じて米国の大学における研究者の給与は高いが、雇用契約や安定度に関しては研究職は日本よりも厳しい市場である。

tenuretrackstructure_new tenure_cartoon  “一つの扉はテニュア、もう一つはマクドナルド行きの扉だ”