精神分析学(Psycho analysis)では「無意識(the unconsciousness)」ということが重要な概念として取り上げられます。心理学において最も魅力があり、かつ難しいテーマの一つといえそうです。無意識には私たちの現実の経験の一切が含まれているともいわれます。同時にそれは私たちの覚醒状態や統制を規定しているようでもあります。私たちのあらゆる記憶や思想、感情を蓄積する場ともいわれます。
前回、フロイドは詩や哲学に大きな影響を受けたことに触れました。シェークスピア (William Shakespeare) やニーチェ(Friedrich Nietzsche) を指しているようです。フロイドはこうした詩人や哲学者による卓越した人間の心理描写を考察して、彼らが自分より以前に無意識を発見していたといっています。彼は、「自分が発見したのは無意識を研究する方法である」とも述べているくらいです。すこぶる興味深いことです。
さてフロイドは精神の構造を意識、無意識、前意識の三相からなると仮定します。そのきっかけとなったのはヨセフ・ブロイアー(Josef Breuer)という内科医との出会いです。ブロイアーはウイーン(Vienna)で頭痛や感覚喪失、意識の途絶などに悩む患者を治療していました。彼が用いた方法は「会話による癒し」(talking cure)という、患者が幻想や幻覚を語らせることでした。それによって患者の症状が著しく回復することを知ります。ブロイアーは、患者のトラウマになっている出来事の記憶へ近づくのを容易にするために催眠術を使います。患者の症状は二週間のセッションによって和らいだことを紹介します。
患者の症状は、無意識の状態の中に埋もれている混乱をもたらす記憶の産物であるとフロイドは解釈します。さらに、考えを声にすることでそれらの記憶が意識化されると症状は消失していくと説明します。こうした治療の経緯はフロイドの研究に大きな影響を与え、精神分析学の研究に没入していきます。精神分析学についてはあまたの著作があります。
「会話による癒し」とは自由連想法(free association)のことのようです。自由連想法はもとはといえば、分析心理学といわれたユング(Carl Jung)もしばしば使っていた方法といわれます。「能動的想像法」の一環として「箱庭療法」も挙げられます。