落語には江戸が舞台となるものが多いので、どうしても上野や山谷、浅草、そして吉原が登場する。その一席「お見立て」である。
吉原の喜瀬川花魁の許へ、春日部から彼女をごひいきにする杢兵衛大尽がやってきた。花魁は表では客として大尽をとるが、裏では大嫌い。若い衆の喜助に「花魁は病気だ」と言って断るように伝える。喜助は、「一目でも杢兵衛大尽に会っては、、」と説得するが。花魁はどうしても首を振らない。杢兵衛は「それなら病気見舞いをする」と言う。だが花魁も花魁。「吉原の規則では、病気のときは誰にも会わせないことになっている」と喜助から杢兵衛に伝えさせる。
杢兵衛は、「花魁の兄弟だといえば会うことが許されるはずだ、、」と引き下がらない。花魁は面倒なので喜助に、「杢兵衛大尽がお顔を長らく見せなかったので、恋患いで痩せこけお亡くなりになりました」と言わせる。すると、杢兵衛は「それなら墓参りに行くべえ、案内しろ。墓はどこだ?」と言う。喜助は肥後の熊本をでも言えばいいのに、うっかり山谷と言ってしまう。仕方なく、花魁と相談の結果、杢兵衛を山谷へ連れて行き、適当に寺を見繕って入る。
煙の多い線香と花束をわんさと買い求める。墓石の字のわからなそうなのを選び「これが花魁のお墓です」と偽って、墓石が見えなくなるようにして花や線香を手向ける。だがそれは百年前の誰かの墓。杢兵衛は怒鳴る。喜助は慌てて「間違えました。お隣りでした」と花、線香を移すが、見ると童の墓。「間違えました。じゃぁ、こちらです」と移すと、これが故陸軍上等兵の墓。杢兵衛はとうとう激怒する。
杢兵衛 「喜助!、喜瀬川の墓ァいってえ、どれだ!?」
喜助 「ずらり並んでおります。よろしいのをお見立てください」