落語に泥棒がしばしば出てくる舞台は長屋です。江戸時代、庶民の多くは長屋に住んでいました。隣り近所つきあいが当たり前の頃ですから、だれも鍵をかけることはありません。泥棒にとっては格好のカモです。しかし、盗めるものといえば着物などめぼしいものは少なかったようです。「喧嘩と火事は江戸の華」といわれました。木造の安普請の建物ですから、風が吹けば桶屋が儲かる時代です。「泥棒デモやろうか、、」という「デモ泥」もいたとか、、、
そんな長屋で人情味のある泥棒を描いた演目に『夏泥』があります。泥棒は情深いのが欠点で、それが仇?となって、「さあ殺せ!」と開き直った住人にうまく欺され逆にカネを巻き上げられる、「来年もまた泥棒に入ってくれ」と誘われる始末です。盗人噺の代表の一つです。
上方落語では「盗人の仲裁」「盗人のあいさつ」などの演目名で披露されるのが「締め込み」です。泥棒が空き巣に入り、品物をまとめて逃げようとすると、住人が帰って来ます。仕方なく土間にかくれます。住人夫婦は、戸締まりのことで喧嘩を始めます。熱い湯の入ったヤカンを投げるありさまです。お湯が土間に流れると泥棒、我慢出来なくなって住人の前に出てきてしまいます。住人は喧嘩の仲裁に入ってくれたのを感謝して、また来るようにというのです。
「狸札」という演目です。いじめていた子狸を助けた八五郎の所に狸が恩返しにやってきがます。借金があるから札に化けてくれと言われると五円札に化けます。相手のガマ口に四つに折って入れられた狸は、苦しくなってガマ口を食い破って、中に入ってあった札も持って帰るという噺です。