ナンバープレートを通してのアメリカの州  その四十六 ペンシルベニア州–Amishと子どもの教育

本稿はアーミッシュの子ども達の教育についてです。子どもはコミュニティの中にある一部屋の教室で8年間学びます。これはワンルーム・スクール・ハウス(One room school house)と呼ばれています。二部屋の教室もあります。学ぶのは聖書の読み書き、英語、ドイツ語、算数、歌唱などに限られています。教師は未婚の女性がなります。教員免許は持っていません。学びで大切なことは、両親らから教えられる農作業、家畜の世話などの実地体験です。子どもは大学に入ることはありません。高等教育は、アーミッシュの人々の考え方や生き方を乱す世俗のものであると考えるからです。

Amish School

教育年限が8年間であることについて、ウィスコンシン州に住んでいたジョナス・ヨーダ(Jonas Yoder)ら3名のアーミッシュがマディソンの近くにあるニューグレラス(New Glarus)高等学校への子どもの就学を拒否してウィスコンシン州教育委員会を相手に裁判を起こした有名な事例があります。これはWisconsin v. Jonas Yoder裁判と呼ばれます。初審はグリーン・カウンティ(Green County)裁判所で開かれ、原告の敗訴となり5ドルの罰金が科せられます。二審の州最高裁では、一転してヨーダー側の勝訴となります。それを不服としてウィスコンシン州教育委員会は、連邦最高裁判所に上告します。保護者には子どもに高等教育を受けさせる義務があるという主張です。

Amish Family

それに対して、ヨーダら保護者が、高等学校における就学義務について「アーミッシュの子ども達を信仰に反する態度・目的や価値といった点で世俗の影響にさらし、アーミッシュの子どもの宗教的発達と、アーミッシュの信仰による共同体での生き方の統合を、発達の決定的段階である青年期に本質的に阻害され、親および子どもの両方にとって高等学校教育がアーミッシュの基本的な教義と慣習に反する」と訴えたのです。アメリカでは、小学校が5年、中学校が3年、高校が4年の12年間が義務教育で無償となっています。ただし、アーミッシュは、子ども達の読み書きや算術などの基本的な技術を学ぶために公立学校に通うことに反対したのでありませんでした。

Amish girls on computers

アーミッシュ共同体外での高等学校段階での就学義務によって、子ども達を「人間の成長にとって極めて重要な意味をもつ青年期に、物理的、情緒的にからアーミッシュの共同体から連れ去ってしまう」という理由です。ウィスコンシン州はアーミッシュによる義務教育法の適用免除要求を拒否しますが、連邦最高裁判所は、1972年5月15日に州がアーミッシュの家族と子どもの宗教的権利を侵害したと判決を下します。最高裁のバーガー(Warren Burger)首席判事は、法廷意見においてアーミッシュはその共同体における生活のために、十分に適切な教育を子ども達に与えていると主張します。さらに、学校では人間に必要なものの半分しか得ることができない、アーミッシュは学校教育に全て委ねるのではなく、家庭や農場での実践を通して、良き市民を育ててきた長い実績があることを評価されたのです。この判事は共同体では低い犯罪率や社会保障給付の辞退を論拠として、アーミッシュは稀なほど子どもの教育に成功しているとも述べるのです。

この最高裁判決において、少数の反対意見をダグラスという判事(William Douglas)が述べています。憲法の修正第1条の言論や表現、結社、宗教の自由、さらに修正第14条にある市民の広範な権利は保障されるべきであること、しかし、コミュニティにおける8年の教育で十分であるという主張は、果たして子どもの幸福を保障するものかは疑問であるとします。保護者の訴えは子どもの訴えではないという主張です。子どもの意見を聞くべきであるというのです。