英語あれこれ その17 松本 亨氏

筆者にはいろいろな先輩がいる。その一人が松本亨氏である。1913年、網走郡美幌町生まれ。筆者も1945年に、樺太から命からがら引き揚げてきたのが美幌なのである。美幌に小学校5年まで暮らした。そのような訳で彼は育った故郷の大先輩ということになる。

松本は、戦前14年もの間アメリカで神学を勉強したり英語教育を勉強した経歴がある。戦時中は日本人が拘留されていた敵性捕虜収容所で生活した経験もある。戦後はコロンビア大学から教育学博士号を授与され、その後明治学院大学、日本女子大学、フェリス女子学院大学にて教鞭をとったときく。

日本の英語会話の草分けとなったNHKラジオの「英語会話」の講師を22年間努めた。「英語会話」はラジオから幾度となくきいた。テレビがない時代であった。その独特な太い声と発音にはしびれたものである。

氏の著作には次のようにある。「英語教育の基本は “Think in English” ということばにある。英語を話すとき、聞く時、読み書きする時に、日本語に訳しながら話そうとしても素早く対応できないし、そもそも不自然な英語になる。」

日本語で考えてそれを英訳するとどうしても関係代名詞はどうか、話法はどうするか、現在完了形はどうか、などと英文法が頭に浮かぶ。そうこうしているうちに、相手の質問の内容や話すべき主題が吹っ飛んで頭は真っ白になる。

“Think in English”とは英語を最終目的にしないということだろう。我々は英語屋になることではない。コミュニケーションをする人間になりたいのだ。英語を使って何をやるのかということである。

松本の「英語会話」は、筆者が英語に興味を持つことになった原点である。

English-conversation matsumoto_toru 松本亨氏