ナンバープレートを通してのアメリカの州  その四十七 ペンシルベニア州–Amishとキルト

復習ですが、アーミッシュ(Amish)とはキリスト教徒の一派で、聖書の教えを忠実に実践しようとする人々のことです。政教分離を唱え、政治的な宣誓や戦争を拒否します。良心的兵役拒否という姿勢です。質素で簡素な生活を信条とする人々(plaine people)とも呼ばれています。

今回はアーミッシュの人々によって作られるキルトの話題です。アーミッシュ・キルトは日本でも知られ人気の高い飾り物です。アーミッシュが、無地の布をパッチワークしつくるアーミッシュ・キルト(Amish Quilts)は、 鮮やかな色合いと幾何学模様から生まれるデザイン、細やかなステッチが特徴です。聖書の解釈に従って質素な生活規範を守り続けるグループが製作する深い味わいを感じさせてくれるのがアーミッシュキルトです。謙遜・控えめであることを重視している人々は、決まった色の無地の布を用いた衣服を着用し、この布のみを使用したキルトが、アーミッシュの生き方を表現するものとなっています。

Amish and Quilts

アーミッシュ・キルトは、布地を有効に利用し、余った布や端布をつないで作ったのが始まりと言われています。当時は布の利用に主眼がおかれたため、デザインなどのモチーフなどを込めた制作は行われなかったようです。生活のまわりにある植物の色、農場の土の色、そして空の青などを基調としているので地味ながら深く重厚な雰囲気を感じさせてくれるのがキルトです。

Amish quilts

誕生する子どものために特別につくられる子ども用寝台、キルトも単色の布が用いられて配色やシンメトリー、モチーフに心を配り丹念に縫い合わされ、豊かなキルティングが施されるのも特徴です。キルトは、表地に薄い綿をかませ、重ねた状態で縫ったものです。三枚目の生地で綿を挟む場合も多い。綿の厚みで陰影の表情がうまれます。結婚を控える娘に持たせるために作られるベッドカバーなどはこうしたキルトの代表といわれます。

ナンバープレートを通してのアメリカの州  その四十六 ペンシルベニア州–Amishと子どもの教育

本稿はアーミッシュの子ども達の教育についてです。子どもはコミュニティの中にある一部屋の教室で8年間学びます。これはワンルーム・スクール・ハウス(One room school house)と呼ばれています。二部屋の教室もあります。学ぶのは聖書の読み書き、英語、ドイツ語、算数、歌唱などに限られています。教師は未婚の女性がなります。教員免許は持っていません。学びで大切なことは、両親らから教えられる農作業、家畜の世話などの実地体験です。子どもは大学に入ることはありません。高等教育は、アーミッシュの人々の考え方や生き方を乱す世俗のものであると考えるからです。

Amish School

教育年限が8年間であることについて、ウィスコンシン州に住んでいたジョナス・ヨーダ(Jonas Yoder)ら3名のアーミッシュがマディソンの近くにあるニューグレラス(New Glarus)高等学校への子どもの就学を拒否してウィスコンシン州教育委員会を相手に裁判を起こした有名な事例があります。これはWisconsin v. Jonas Yoder裁判と呼ばれます。初審はグリーン・カウンティ(Green County)裁判所で開かれ、原告の敗訴となり5ドルの罰金が科せられます。二審の州最高裁では、一転してヨーダー側の勝訴となります。それを不服としてウィスコンシン州教育委員会は、連邦最高裁判所に上告します。保護者には子どもに高等教育を受けさせる義務があるという主張です。

Amish Family

それに対して、ヨーダら保護者が、高等学校における就学義務について「アーミッシュの子ども達を信仰に反する態度・目的や価値といった点で世俗の影響にさらし、アーミッシュの子どもの宗教的発達と、アーミッシュの信仰による共同体での生き方の統合を、発達の決定的段階である青年期に本質的に阻害され、親および子どもの両方にとって高等学校教育がアーミッシュの基本的な教義と慣習に反する」と訴えたのです。アメリカでは、小学校が5年、中学校が3年、高校が4年の12年間が義務教育で無償となっています。ただし、アーミッシュは、子ども達の読み書きや算術などの基本的な技術を学ぶために公立学校に通うことに反対したのでありませんでした。

Amish girls on computers

アーミッシュ共同体外での高等学校段階での就学義務によって、子ども達を「人間の成長にとって極めて重要な意味をもつ青年期に、物理的、情緒的にからアーミッシュの共同体から連れ去ってしまう」という理由です。ウィスコンシン州はアーミッシュによる義務教育法の適用免除要求を拒否しますが、連邦最高裁判所は、1972年5月15日に州がアーミッシュの家族と子どもの宗教的権利を侵害したと判決を下します。最高裁のバーガー(Warren Burger)首席判事は、法廷意見においてアーミッシュはその共同体における生活のために、十分に適切な教育を子ども達に与えていると主張します。さらに、学校では人間に必要なものの半分しか得ることができない、アーミッシュは学校教育に全て委ねるのではなく、家庭や農場での実践を通して、良き市民を育ててきた長い実績があることを評価されたのです。この判事は共同体では低い犯罪率や社会保障給付の辞退を論拠として、アーミッシュは稀なほど子どもの教育に成功しているとも述べるのです。

この最高裁判決において、少数の反対意見をダグラスという判事(William Douglas)が述べています。憲法の修正第1条の言論や表現、結社、宗教の自由、さらに修正第14条にある市民の広範な権利は保障されるべきであること、しかし、コミュニティにおける8年の教育で十分であるという主張は、果たして子どもの幸福を保障するものかは疑問であるとします。保護者の訴えは子どもの訴えではないという主張です。子どもの意見を聞くべきであるというのです。

ナンバープレートを通してのアメリカの州  その四十五 ペンシルベニア州–Amishとバギー

アーミッシュの移動手段は、歩くことかバギー(buggy)と呼ばれる軽馬車を使うことです。馬車は黒か黄色に塗られて、買い物、荷物運び、礼拝などの集まりなどに使われます。自動車といった発明品は使わないという主義です。近代的な農機具を制限することで、土地所有の欲望を抑え、次世代のための労働の場を確保しています。結果として良い土壌と品質の高い作物を収穫しています。

Amish and Buggy

アーミッシュの人々にも近代化や科学技術の影響が伝わっています。彼らの伝統的な生業といえば、農業や酪農が中心でしたが、現在はスキルを獲得し、工場やレストランなどを経営したり、製造業や商業施設で働く人々が多いことです。重油を使って農耕機械を動かし、木工作業を行い、ガスを使ってビニールハウスを暖めたりしています。電気を購入することはしないようです。

Buggy Ride

アーミッシュ女性の手作りによるキルト(quilts)は有名で多くの観光客に喜ばれる品です。自分たちの衣服などに使う無地の布地、空の青、聞きの植物の緑、大地の茶や黒といった傾向の色を好んだことで、全体に深みを感じさせるパタンが伝統的です。キルトを販売し収入を得ることもアーミッシュ生活の変化を示すようです。女性にとって洗濯は重労働です。乾燥機は用いず、旧式な洗濯機をジーゼルエンジンやガスで動かします。アーミッシュのグループによっては手動の装置しか使いません。脱水はローラーに挟んで絞るのです。