ウィスコンシンで会った人々 その68 講中噺 

リーダーを中心に今も昔も団体旅行は盛んである。古くは伊勢詣や熊野詣、金比羅詣りなど信心深い人々。先達というまとめ役を先頭にして何日もかけて無病息災を祈って出掛けた。

相模国、神奈川県の名山に大山がある。丹沢の山々とともに丹沢大山国定公園に属し、日本三百名山や関東百名山の一つで美しい姿をみせている。大山は江戸時代に山岳信仰で盛んになった大山詣りで知られている。江戸からは先達が中心となって講中という相互扶助組織の男達が団体で山に登った。

大山の山頂には大きな石を御神体として祀った阿夫利神社の上社があり、中腹に阿夫利神社下社、大山寺が建っている。大山は別名を「阿夫利山」、「雨降り山」ともいわれる。阿夫利神社には雨乞いの神を祀られている。大山はもともと女人禁制。大山詣りというのは表向きで、大山詣りの後には男たちの楽しみがあった。男だけの大山講になっていた。

講中噺の古典落語の代表が「大山詣り」。ホラ吹きの熊による講中の金沢八景沖における水難遭難報告から、女房連中が一斉に剃髪して尼になるという噺である。途中のエピソードは飛ばすが、主人公のホラ熊が大山詣りから長屋に一人で帰ってくる。そして残された女房達に男連中は全員溺れて死んだと報告する。そして自分は、僧侶になって菩提を弔うためといって坊主頭を見せる。それを見た女達は遭難を信じてしまう。ホラ熊に唆されて尼さんになろうとして剃髪する。

そうとは知らない講中の一行。帰ってみると、長屋中「忌中」の札が張ってある。そして百万遍が聞こえてくる。

ホラ熊 「さ〜ぁ、みなさん、死んで間もないから、亡者が入口あたりで騒いでいる、しっかりお念仏を唱えてくださいよ。」
女房達 「あら、いやだ。うちの旦那だわ。」
男達 「誰がこんな事を。熊の野郎か。お前は決め式で坊主になったのだろう。」
ホラ熊 「ワラジを履いている内は旅の最中だ。腹を立てたら二分ずつ出しな。」
男達 「う〜ぅ。先達さ〜ぁん、、、?」
先達 「これは目出度い事だ。」
男達 「あんたのかみさんも坊主なんだぞ?どこが目出度いんだ?」
先達 「お山は晴天、家へ帰ればみんなが坊主、お毛が(怪我)なくってお目出度い。」

A1903450-1_im  阿夫利神社118925619777716113779 相模の大山