【話の泉ー笑い】 その三十一 落語 その5 与太郎噺と笑い

落語にはいろいろな人物が登場します。「八っぁん、熊さん、」などと並ぶ代表的なのが与太郎です。与太と呼ばれます。性格は八五郎に似ていて惚けていますが、憎めません。

与太は、例外なくぼんやりした人物として描かれます。性格は呑気で楽天的。何をやっても失敗ばかりするため、心配した周囲の人間から助言をされることが多いのです。こうしたキャラクターから、与太郎の登場する噺は爆笑ものが多く、与太郎噺と分類される場合もあります。さらに「愚か者」の代名詞となっていますが、決して憎めない存在です。長屋の者は与太郎をかばうことを決して忘れません。

上野広小路の寄席

「孝行糖」という演目では与太は親孝行という筋書きになっています。殿様から親孝行なので褒美の青ざし五貫文を頂戴します。五貫文とは一両一分で十万円くらいと云われます。長屋の者は、五貫文を元手に与太郎にお菓子の孝行糖売りの行商を教えるので。自立させようというのです。そして与太に客寄せの台詞を教えます。「チャンチキチ スケテンテン♪ 孝行糖、孝行糖〜」。「錦の袈裟」という演目では与太にしっかりものの妻が登場します。与太に錦の袈裟とふんどしをつけて男衆の集まりに送り出すきっぷのいい妻です。若い衆らとで吉原に乗り込みますが、与太は女達にすっかりもてるのです。与太を殿様だと勘違いしたからです。周りの男は与太のもて振りにすっかりあてられるという結末です。

代書屋

「牛ほめ」という演目では、頓珍漢な言動ばかりしている与太さんが登場します。新築の叔父の家を訪問し、父親に教えられた通りにほめ言葉を並べて感心されるのですが、最後に牛を見せられて失敗します。「大工調べ」では与太は腕っぷしのいい大工として登場し、滞納した店賃のカタとして没収された道具箱を取り返すべく、大工の棟梁の助言で、あこぎな家主を相手に訴訟を起こします。お奉行も味方しようとするのですが、ばか正直なためになかなか決着しません。「つづら泥」は与太が泥棒を試みる数少ない噺。夜自分の家に泥棒にはいるという大失敗をします。

「佃祭」にも与太が登場します。佃島の祭りの帰りに渡し船が転覆して死んだと思われるのが与太です。ところが近所の旦那の家に、ほかの住人たちに連れられて長屋の月番で代表の1人として弔問に訪れる与太。ですが、悔みと嫌みの区別がついていなかったり、最初の一言が「このたびはどうもありがとうございます」だったりで、厳粛な雰囲気をぶち壊しにします。