心に残る一冊 その27 「獄医立花登手控え」「春秋の檻」

「獄医立花登手控え」というサブタイトルのつく「春秋の檻」、「風雪の檻」、「愛憎の檻」という藤沢周平の作品を読んでいます。羽後亀田藩の下士に生まれた獄医立花登が難事に挑む時代小説です。羽後とは出羽の別名。亀田藩とは、秋田県南部に位置する日本海に面した由利本荘市にあった藩です。

登は国許の医学校で医学を修め、さらに江戸に赴いて医学を精進すべく、叔父の小牧玄庵の所に居候します。玄庵も浅草で開業する町医者です。酒が好きで酒代を確保するために小伝馬町にある牢屋敷で医者も努めています。医学を志す登は玄庵の腕に失望しながらも、書物を読み玄庵の代診をしながら研鑽していきます。

医師を志しながら、獄舎でつながれる人々の様々な事情と向き合います。起倒流という柔術で危険な人間をやり込めるのです。島送りの流人船を待つ囚人から、ある女に渡るべき十両をやくざから取り戻し、渡して欲しいと依頼されます。渡した十両を取り返そうとするやくざの匕首を躱し当身を打ち込んで倒します。

居候の登の世話をする叔母は、登に酒飲みの叔父の愚痴をいったり、素行の芳しくない娘のことで相談をかけたりして、時に登を身のうちの者のような言い方でもたれてきたりします。日頃はいろいろな用事を言いつける口うるさく杓子定規な女性です。

「登さんも江戸に慣れて、そろそろこの家に住むのがいやになりましたか」というように平気で嫌みを言ったりします。

小伝馬町の牢獄には三人の医師がいて、漢方でいう本道である内科医が二人、外科医が一人となっています。登は内科医という設定となっています。人間として医師として成長を遂げていくさまが描かれています。

叔父の代診で牢屋敷に通うなかで、登は牢獄につながれる人々が、なぜ罪を着せられたか、罪を犯したのかを問うのです。彼らの苦悩に共感しながら、残された人生を懸命に生きようとする姿に寄り添おうとします。