“I have a dream that my four little children will one day live in a nation where they will not be judged by the color of their skin but by the content of their character.”
冒頭から英文でお許しいただきたい。出てくる単語はすべて中学の英語で学ぶものばかりである。どうしてもこのパラグラフを引用しないと、今回のブログは体をなさないと考える。ノーベル平和賞の受賞者、マーチン・ルーサー・キング牧師(Martin Luther King, Jr.)の有名な演説の一部である。1963年8月に首都ワシントンDCで繰り広げられた大行進のとき読み上げたものである。
プロテスタントバプテスト派の牧師であるキング博士は、ペンシルベニア州のクローザー神学校(Crozer Theological Seminar)を経て父親と同じくバプテスト派の牧師となる。その後1955年にボストン大学神学部で博士号を取得した。
キング牧師は、解放宣言で明確に打ち出された奴隷の廃止に関して「それは、捕らわれの身にあった彼らの長い夜に終止符を打つ、喜びに満ちた夜明けとして訪れたのだった」と説く。この箇所は、旧約聖書詩篇30章5節(Psalm)から引用したものだ。
■その怒りはただつかのまで、その恵みはいのちのかぎり長いからである。夜はよもすがら泣きかなしんでも、朝と共に喜びが来る。
次に奴隷解放に至るまでの長い道のりを回想し次のように説く。
「そうだ、決してわれわれは満足していないのだ。そして、正義が川のように流れ下り、公正が力強い急流となって流れ落ちるまで、われわれは決して満足することがない」この部分は、アモス書5章24節(Book of Amos)の次の聖句に由来する。
■公道を水のように、正義をつきない川のように流れさせよ。
さらに「いつの日にか、すべての谷は隆起し、丘や山は低地となる。荒地は平らになり、歪んだ地もまっすぐになる日が来ると。」という部分はイザヤ書40章4節(Book of Isaiah)からそのまま引用している。
■すべての谷は埋め立てられ、すべての山や丘は低くなる。盛り上がった地は平地に、険しい地は平野となる。
イザヤ(Isaiah)は旧約聖書に登場する有名な預言者の一人。イザヤ書40章3節で「荒れ野に主の道を備えよ」と新しい国造りをイザヤは指し示す。「虚飾ではぎとられた荒れ地を耕し、権力者と驕り高ぶっている山と丘を低め、おとしめられてきた者がいる谷を埋め、主のための道を備えよう。」と説く。
文章の冒頭の語句を繰り返す反復も修辞の手段として、演説全体で用いられている。なかでも “I Have a Dream …” という表現は8度出てきており、その表現でキング牧師が描く差別のない一体化したアメリカを聴衆に訴えている。
そして演説の最後は、“Free at last ” で終わる。このフレーズは、黒人霊歌のタイトルである。キング牧師の演説草稿は深い思索と博識に裏打ちされていることを教えてくれる。