今回は合唱とア・カペラ (a cappella) の話題です。ニューグローヴ世界音楽大事典 (New Grove Dictionary of Music and Musicians) によりますと、中世ルネサンス (Renaissance) 時代になると作曲家が教会を舞台にして、複雑で豪華な曲作りを競い合ったとあります。このため、礼拝儀式か音楽会なのかが分からない状態となり、また肝心な歌詞が聞き取りにくくなっていきます。
これを問題視したヴァティカン (Vaticano) は、さまざまな教会改革の一環として、教会音楽の簡素化に取り組みます。ヴァティカンはカトリック教会と東方典礼カトリック教会の総本山。こうして生まれたのがア・カペラ (a cappella) 様式の楽曲です。それを担った代表的な作曲家がイタリアのジョヴァンニ・パレストリーナ (Giovanni da Palestrina) やフランスのジョスカン・デ・プレ(Josquin Des Prez)です。
イタリア語のa cappella (ア・カペラ) は、英語の”in chapel style” という意味ですから「聖堂で」とか「礼拝堂において」と訳されます。これが名詞句化して、教会音楽の1つの様式を指すようになります。ヴァティカンの教会改革の一つは、「a cappella」の創作ということだったようです。
ルネサンス期にかけて盛んになるのが、ポリフォニー (polyphony) という 複数の独立した声部 (パート)からなる音楽形式です。一つの声部しかない楽曲はモノフォニー (monophony)と呼ばれます。ア・カペラ様式の特徴は、曲の全体または一部がポリフォニーとなっていることです。簡素ですから歌詞の聞き取りが容易になります。複数の声部によって、無伴奏または、歌のメロディーをなぞる程度の簡単な伴奏、たとえばリコーダを背景に歌詞をつけても歌われます。
しかし、ギリシャ正教会 (Orthodox Church)聖歌は原則として無伴奏声楽です。その理由は「ことば」(text)による礼拝が重視されてきたからです。ことばで表された信仰上の教義や霊的な導きは、音楽を伴うことで意識に深く刻まれ、霊的な感情へと導かれるといわれます。正教会の礼拝はほとんどが歌で満たされるといってもよいくらいです。説教以外に普通の話し方は行われず、祈祷書のテキストはさまざまな旋律に乗せて歌われます。ルーテル教会の礼拝はオルガンが必ず奏でられ正教会が音楽を重視するのとは同じです。無伴奏声合唱という意味では正教会の聖歌も「ア・カペラ」といえるのですが、正教会ではなぜか「ア・カペラ」ということばを使いません。
「ア・カペラ=無伴奏合唱」というイメージが一般に浸透し、さらには教会音楽以外の無伴奏合唱や無伴奏ボーカルアンサンブル (vocal ensemble) を指す言葉として「ア・カペラ」が広く使われるようになりました。無伴奏での独唱を「ア・カペラ」と呼ぶ場合もありますが、それは無伴奏ソロと呼ぶべきものです。本来の「ア・カペラ」ではありません。
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