心理学のややこしさ その七 西周と百科全書

ティドロ(Denis Diderot)らが著した百科全書に、西周は大きな影響を受けたことがその後の洋学研究活動でわかります。1855年、江戸幕府の洋学教育研究機関ともいえる「洋学所」がつくられ西は洋学書頭取に任命されます。1857年に授業が開始され、そのときの生徒数は191人だったことが記されています。西は洋学所で「百学連環」という講義科目を担当します。「百学連環」は百科全書という近代諸科学の体系を講義するための科目だったようです。

1863年には、「洋学所」は「開成所」と改称されます。「開成所」は1868年8月の布告により医学所とともに明治新政府に接収され、同年官立の「東京開成学校」として再興します。開成学校はのち医学所の後身である医学校と統合され東京大学が発足します。そのような経緯で、開成所は現在の東京大学の源流とみなされています。

西周全集4巻に「百学連環」の目次が記されています。
第二編 特別学、第一 心理上学(intellectual science)、哲学
第二    性理学(psychology)

西周は性理学(psychology)を次のように解説します。
「Psychologyなる字は英語の魂(soul)なり。この魂と名つくるものは、およそ人身の上に属する魂、心、性の三つなり。この三つなるものは皆一つのものにして人身の主宰たり。その生活の上より称するときは魂といい、作用の源を心とい、作用有常の源を意というなり。その魂といい、心といい、意というもそのよるところに従って名を異にするのみにて、唯一のものなり。故に魂と称する字を性理学と訳すものなり。」