ウィスコンシンで会った人々 その46 「地噺」と鰍沢

落語は人情噺や滑稽噺のようにほろりとさせたり、笑わせるものだけでない。演者がストーリーを語ることを中心として上演されるものもある。これが「素噺」とか「地噺」と呼ばれる分野である。落語の多くは、登場人物の対話で話が進む。だが地噺は、演者が聴衆に人物の心理を周りの状況を説明しながら筋を進行させる。

筆者が好きなのは、名人古今亭志ん朝の地噺である。その中で、「鰍沢」と「塩原多助一代記」を取り上げる。「鰍沢」という地名は山梨県南巨摩郡にかつて存在したといわる。江戸時代には富士川舟運の拠点であった鰍沢河岸があった。今は富士川町となっている。南巨摩郡には身延町があり、日蓮宗の大本山久遠寺がある。

久遠寺での参詣を済ませたある旅人は、帰りに大雪の中、山道に迷う。たまたま見つけた一軒家で一夜の宿を頼む。応対したのが妙齢の婦人、お熊である。だがアゴの下から喉にかけて突き傷跡がある。体を暖めるためすすめられるまま卵酒を半分ほど飲む。話をするうち、お熊がかつては吉原の遊女であり、現在は猟師の妻であることが分かる。旅人はお熊と会ったことがあることを告げる。

お熊は夫の酒を都合しにと言って雪の中に出る。旅人は酔いと疲れのために道中差しを枕元において眠りに落ちた。そこへお熊の夫が帰ってきて、旅人が残した卵酒を飲み干す。だがたちまち苦しみ出す。帰ってきたお熊は夫に「旅人にしびれ薬入りの酒を飲ませて殺し、金を奪い取る算段だった」と明かす。それを聞いた旅人は、すでに毒が回った体で久遠寺の「毒消しの護符」を雪で飲み込み、吹雪の中へ飛び出し必死に逃げる。途中、体の自由が利くようになる。お熊は鉄砲を持って旅人を追いかける。

旅人は川岸の崖まで追い詰められる。そこへ雪崩が起こり、旅人は突き落とされる。運よく、川の中ではなく、岸につないであった筏に落ちそれが流れ出す。お熊の放った鉄砲の弾が旅人を襲うがそれる。急流を下りながら懸命に「南無妙法蓮華経、南無妙法蓮華経、、」。旅人は窮地を脱するという噺である。

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