沈黙の春

自然には均衡があるといわれます。私たちは、かつてはそんなことを気にしないで生きてきました。「自然は蘇えり復元する力をもっているから、開発の影響なんてちっぽけなことだ、、、」とうそぶくこともありました。人は世界中で勝手な驕りを繰り返してきました。そのツケがまわっています。

我が国にも生息していた珍しい動物が絶滅しました。オオカミもコヨーテもいたといわれます。今の田舎では、イノシシや鹿が里におりてきて木の実や野菜を食べつくしています。畑の周りに電線を張り巡らしてもそれを飛び越える、人の脅し声を流してもそれに慣れて怖がらないのです。動物は人の知恵を出し抜く力を編み出しています。野生動物の連鎖が消えたことによって、特定の動物が繁殖しているのです。

病原菌については、薬品に対する抵抗性の問題がでてきました。ある種の病原体に効く農薬をつくりそれを散布するとします。病原体はほとんど死滅しますが、不思議なことに一部のものが生き残り、ふたたび増殖するのです。そして次世代へ遺伝していきます。

「沈黙の春」(Silent Spring)の作者、レイチェル・カーソン(Rachel Carson)は警鐘を鳴らします。彼女は合衆国連邦漁業局で海洋生物学者として勤務します。アメリカでは、化学物質がつぎつぎと開発され実用化されていましたが、その危険性についてはあまりにも知られることなく、大量に生産され使用されるという状況にありました。なかでもDDTなどの殺虫剤が空中散布されるなど乱暴な実態がありました。

Rachel Carson

「日本のコメ作りは世界農業のなかで最も多くの人手を要し、最も土地あたりに生産高をあげてきた。つまり本来の自然の姿からいえば、最もはなはだしいバランスの破壊を前提にしている。」このことを彼女が指摘したのは1964年のことです。かつて住んでいた兵庫県でも田圃では殺虫剤がまかれていました。

「沈黙の春」の出版を契機に、一方で化学物製造会社は猛烈に反論し、他方で科学者が彼女の立場を擁護し大きな論争へと発展します。当時のケネディ大統領は、大統領特別委員会の設置を命じます。この委員会から出された結論は、「沈黙の春」とカーソンの立場を支持するものでした。その後アメリカでのDDTの使用は政府の管理下におかれ、やがて使用が全面的に禁止されます。

「自然の生態系には「食物連鎖」と「生物濃縮」という「自然の摂理」がはたらいています。彼女は、この「食物連鎖」と「生物濃縮」が失われると環境汚染がジワジワと進むと警告します。「沈黙の春」は、環境と人間とのかかわりから環境問題の告発という大きな役割を果たし、人間が生きる為の環境をも見据えた環境運動への先駆けとなりました。環境問題の古典と呼ばれる所以です。是非、手元に置いておきたい一冊です。

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