認知心理学の面白さ その二十五 母子関係とジョン・ボウルビ

幼児期に母親から分離された猿は社会的、情動的に問題を惹き起こすことがあるのを指摘したのがハロー(Harry Harlow)です。育児の主たる機能は母親との身体的接触を確かなものにすることだとも主張します。ボウルビが幼い段階での愛着に進化的なとらえ方をしたのは、精神分析的な解釈に抗ってのことといえます。

ボウルビによりますと、新生児は完全に無力なため、自身の生存を確保するために母親との間に愛着を形成するように遺伝的にプログラムされていること、さらに母親にもまた自分の子供との間につながりをもうけるように遺伝的にプログラムされていると主張します。なんであれ、母と子の分離を招きかねない条件は不安と恐れの感情を誘発し、その結果、本能的な愛着行動が発動すると考えます。

ボウルビの理論で論争を呼んだのは、幼児は常に男性ではなく女性に愛着を示すという仮説です。この女性像は産みの母親ではないかもしれませんが、確かに母親像を表しています。母親像への愛着は、その子供が障害を通じて形作ることになるいかなる愛着とも異なっており、重要だという点です。幼児期における母の愛は、身体的健康にとってビタミンや栄養剤が重要であると同じくらいに心の健康にとって大事だと主張します。

母親像への愛着はどのような子供にも当てはまることではあります。しかし、さまざまな事情で片親に育てられる子供も大勢います。片親の豊かな愛情によって逞しく育つ子供もいます。現代は育児の方法や親の働く環境の多様性から、ボウルビの主張するような家族のあり方からは変わってしまいました。どのような変化が起ころうと、子供には産みの親でも育ての親であろうとも、豊かな愛情を必要としていることは不変といえるでしょう。