懐かしのキネマ その45 【クレイマー、クレイマー】

離婚と親権という、現代社会が避けて通れない問題を取り上げた家庭劇が『クレイマー、クレイマー』(Kramer vs. Kramer)です。舞台はニューヨーク (New York)・マンハッタン(Manhattan)。仕事熱心の会社員テッド・クレイマー(Ted Kramer)と、家事と育児に励むジョアンナ・クレイマー(Joanna Kramer )夫婦がいます。二人は8年前に結婚し、5歳になる息子のビリー(Billy) がいます。仕事に夢中のテッドに、ジョアンナは愛情を感じなくなっていきます。このままでは自分がダメになってしまうと考え、逃げるように家を出ます。

その後、カリフォルニア(California) でセラピストとして働きながら、ビリーに対しては何通かの手紙を出します。ジョアンナは自分を取り戻し、再びビリーへの愛情に気づいていきます。テッドは、息子ビリーと戸惑いながらも父子二人きりの生活を始めます。息子の朝食を作り、学校まで送った後、自らは急いでタクシーで会社へ向かうのです。ジョアンナが出奔してから1年半の間に、家事と育児に精を出すテッドです。

そんなある日、ビリーがジャングルジムから転落し大怪我を負ってしまいます。そのうえ息子に気を取られ仕事に身が入らないテッドは、会社から解雇されてしまうのです。ジョアンナはニューヨークに戻ります。テッドがビリーを学校に送る様子を近くのカフェから眺め、テッドにその姿を見られます。ジョアンナはテッドをレストランに呼び出し、ビリーを引き取りたいと申し出るのです。テッドは怒りをあらわにして取り合わないため裁判となります。

ジョアンナのカリフォルニアへの出奔中に成立させた離婚で息子の養育権はテッドに渡すと認められます。ジョアンナは、母性を盾に養育権の奪還を裁判所に申し立てるのです。テッドは弁護士に相談するも、失業中のために養育権を勝ち取る見込みはほとんどなくなります。裁判の前にどうしてもビリーと会いたくなったテッドは、弁護士を通してビリーと1日を過ごせるようになり、セントラルパーク(Central Park) で再会したビリーを抱きしめるのです。

裁判でジョアンナは、テッドとの結婚生活が不幸で追いつめられており自殺寸前だったこと、自分に欠点があると考えて子どもを置いていったこと、今は立ち直って仕事もしていることを語り、ビリーは母親の元で育てられるべきと主張します。他方で、テッドの弁護士からは、テッドとの関係がうまくいかなかったことから、ビリーをきちんと育てられる保証はないと責められて涙を流す姿を見せます。結局テッドは「子の最良の利益(best interest of the child)」の原則により敗訴し、ビリーの養育権はジョアンナのものとなります。

裁判が終わり養育権者への引渡しの時がきます。ビリーをジョアンナに引き渡す日の朝、テッドは最初のころは上手くつくれなかったフレンチトーストをつくり、ビリーと二人で最後の朝食をとります。ジョアンナからの電話でテッドがアパートの階下に降りると彼女は思いつめたかのように呟きます。「ビリーは引き取らないわ。その代わり、時々会っても良いかしら? 上に行ってビリーと話してもいい?」。二人は、法廷での激しい応酬を忘れ感極まって抱擁するのです。