ウィスコンシンで会った人々 その96 代書屋噺

西東京の福生市には米軍の横田基地がある。基地前の通りには英語の看板がずらりと並ぶ。いろいろな文書の翻訳を生業とする商売が今もある。運転免許申請書を作るのも現代の代書屋というか行政書士である。

江戸時代、読み書きができない者もいたようだ。大工の仲間では、読み書きができる者をおちょくる小咄もある。「てめ前、なにを書いているんか?」「兄いに手紙を書いている」「兄貴は読み書きできるんか?」「いいや、できん」

「代書屋」という演目を紹介する。履歴書の代書を頼みにきた読み書きができない男。代書屋との珍妙なやりとりが始まる。代書屋は丸い黒縁のメガネをかけ狸のような風袋である。

代書屋 「名前は?」
男 「湯川秀樹」
代書屋  ???
代書屋 「ほんとか? 湯川不出来じゃないか」

代書屋 「生まれはどこ?」
男 「産婆さんのところ」

代書屋 「生まれた場所の住所をきいている」
男 「吾妻橋のそば」
代書屋 「墨田区向島一丁目としておこう」

代書屋 「現住所は?」
男  「永田町一丁目一番地かな」
代書屋 「そこは総理大臣官邸、あんたはどうかしている、、」

代書屋 「学歴は?」
男 「尋常小学校」。「尋常小学校に二年いった」
代書屋 「尋常小学校卒業でなく中退と書いておこう、二字訂正 判」

代書屋 「職業は?」
男 「饅頭屋」
代書屋 「饅頭屋を開業す、、としよう」
男 「饅頭屋は半日でやめた」
代書屋 「なんでそれを先に言わない! 一行抹消 判」

そのうち、履歴書が訂正と抹消で真っ黒になるという噺である。

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