ウィスコンシンで会った人々 その120 囲碁噺 「笠碁」

昔の道楽といえば、「呑む」「買う」「うつ」。その内最もタチの悪いのが「うつ」、博打である。身代を持ち崩し、家族が崩壊することが多かったようだ。道楽ならぬ「道落」といわれる所以である。現代の「打つ」の代表は囲碁や将棋といえよう。

囲碁は筆者の趣味の一つ。毎週二回は囲碁例会の会場予約や親睦のお世話をしている。囲碁にはいろいろな人物や話題が登場する。いくつかの囲碁にまつわる演目があるが、大抵はヘボ碁やザル碁を笑うもので、どれも江戸時代が舞台となる。

「笠碁」という演目がある。竹馬の友で碁敵の美濃屋の隠居とある旦那の噺。この二人、今日も「待ったなし」という約束で打ち始める。中盤までスラスラと何事もなく進むのだが、途中、旦那のいつもの癖がでる。「済まん、待ったさせてくれ!」どちらも棋力は二級から初段くらいのようだ。

美濃屋の隠居は「約束は約束!」とどうしても引き下がらない。そのうち旦那は、三年前の借金の話を引き合いにして、返済を待ったしてやったという。だが、隠居は「お金はお金、囲碁は囲碁」と一蹴する。そのうち、売り言葉に買い言葉になって対局はおじゃんとなる。

隠居 「借金の恩義があるから大晦日には、手伝いに行ってやれば蕎麦一杯も出さねえ、このしみったれのヘボ野郎」
旦那 「帰れ、帰れ、このザル野郎め!」
隠居 「金輪際、来るもんか!」

翌日から旦那は孫を連れて上野界隈をブラブラするのだが、退屈でしようがない。「碁敵は憎さも憎し懐かし、」。喧嘩で啖呵を切ったことを悔やむ。それを見かねた番頭が云う。

番頭 「旦那様、碁会所でも行ってはいかがですか?」
旦那 「あんなとこ行ったかて相手はいない、、」
番頭 「相手が。え? 相手が弱すぎて?」
旦那 「強すぎるんや、皆目歯が立たんのや」

美濃屋の隠居もとうとう退屈さに耐えかねたのか、旦那の店の前をウロウロし始める。丁度雨の日。それを旦那が呼び止める。

旦那 「やいやい、ザル野郎!」
隠居 「なに、どっちがザルだ、このヘボ野郎!」
旦那 「ヘボかヘボでねえか、一番やるか!!」

こうして目出度く仲直りをし再び碁盤を囲む。果たして「待った」が飛び出すのか、出さないか。サゲは「笠碁」を聴いてのお楽しみ。

 

20101209_MemorialUnion_MPK_0708e UW, Memorial Union

Memorial Union © UW-Madison News & Public Affairs  608/262-0067 Photo by:  Jeff Miller Date: 1995     File#: color slide

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